『ニューヨーク・タイムズ』紙が映画マニアのための会員組織、The New York Times Film Clubを立ち上げた。100ドルの年会費を払って入会すると、デジタル・リマスターされた名作映画の劇場上映に2回、招待され、上映後は同紙のジャーナリストや映画関係者とのおしゃべりを楽しむこともできる。新作映画の試写会にも年6回、招待してもらえる。
同紙と『ウォール・ストリート・ジャーナル』はこのところ、次々と新しいビジネスをスタートさせている。両紙は一昨年から昨年にかけて、それぞれワイン・クラブをスタートさせた(The New York Times Wine ClubはGlobal Wine Company, Inc.に、WSJwineはLaithwaite's Wine Merchantに運営を委託)。旅行業界にも進出している。『ニューヨーク・タイムズ』は年に一度、旅行会社と旅行客の両方を対象にしたトレードショーを開催している。『ウォール・ストリート・ジャーナル』は今年1月、旅行ガイド・予約のサイト、WSJTravelをスタートさせた。
『ニューヨーク・タイムズ』(The New York Times)、『ワシントン・ポスト』(The Washington Post)、『ボストン・グローブ』(The Boston Globe)の3紙は、新聞の宅配ができない地域に住む読者に向けて、長期購読契約を条件に安い値段でKindle DXによる購読サービスを提供する。また、大手教科書出版社のワイリー(Wiley)、ピアソン(Pearson)、センゲージラーニング(Cengage Learning)も教科書の電子化でアマゾンと合意。アリゾナ州立大、プリンストン大など6つの大学で、学生にKindleを配布するパイロット・プログラムが開始される。
この記事によると、ニューヨーク・タイムズ社の今年1-3月期の販売売上は2億2,800万ドルで、ABC(Audit Bureau of Circulations)によると、この売上をもたらしているのは約100万件のフルウィーク(日曜と平日すべて)の定期購読と、約50万件の日曜版のみの定期購読契約だ(フルウィークの年間購読料は約600ドル)。一方、Amazon.comでKindle版の『ニューヨーク・タイムズ』を購読した場合は、月に13.99ドルで済む。仮に、150万件の定期購読者が全員Kindle版に切り替えたとすると、2億2,800万ドルの売上は6,300万ドルに縮小してしまう。(販売売上には定期購読だけでなくニューススタンドでの販売も含まれているから、この『メディアポスト』の計算はかなり乱暴だと思うが、廉価なKindle版に切り替える人が多くなると売上が大幅に縮小するのは事実だ。そのためにニューヨーク・タイムズ社は、特別料金で定期購読を提供する対象を、宅配のできない地域の居住者に限定したのだろうが、それだけでは読者の減少に多少の歯止めはかかるにしても、実績に大きなインパクトを与える規模ではない。)
メディアポスト(MediaPost)がABC(Audit Bureau of Circulation)の統計をもとに計算したところによると、日刊紙トップ100紙の平日の発行部数合計は、2008年10月~2009年3月の半年間の平均で、前年同期の2,656万部から2,459万部へと7.5%減少した。しかも、その減少率は大きく加速している。同じ100紙の総発行部数は、2002年から2008年までの6年間ではマイナス11.5%(年平均マイナス2%未満)だったが、昨年から今年にかけてはマイナス6.5%だった。
主な全国紙およびメトロ紙の発行部数と減少率は以下のとおり。 ※部数は2008年10月~2009年3月期の1号あたりの平均発行部数。減少率は前年同期の平均発行部数との比較。 USA Today 2,113,725部(▲7.5%) New York Post 558,140部(▲20.6%) New York Daily News 602,857部(▲14.3%) New York Times 1,039,031部(▲3.4%) Los Angeles Times 723,181部(▲6.6%) Chicago Tribune 501,202部(▲7.5%)
唯一、ウォール・ストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)だけは、わずか0.6%ではあるが部数を伸ばした(一号あたりの平均発行部数は2,082,189部)。
この中でニューヨーク・タイムズ紙は落ち幅がゆるやかだが、同紙を発行するニューヨーク・タイムズ社(New York Times Co.)の経営は、いよいよ風前の灯と言っても良い状態だ。今年1‐3月期の同社の広告売上は、前年同期と比べ27%、およそ1億2400万ドルも落ち込んでいる。これが大きく響いて、同社はこの四半期で7,447万ドルもの赤字を計上した。
ウォール・ストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)の編集長ロバート・トムソン氏(Robert Thomson)は、オーストラリアの全国紙オーストラリアン(The Australian)の取材に応えて、コンテンツはタダだという「間違った認識」から利益を得ているグーグルのような企業は「寄生虫」だとこき下ろした。
フィラデルフィア・ニュースペーパーズは、まもなく期限が訪れる負債3億9千万ドルの支払いができなくなった。この負債のほとんどは、現CEOのブライアン・ティアニー(Brian Tierney)氏が2006年に、『インクワイアラー』紙と『フィラデルフィア・デイリー・ニューズ』(The Philadelphia Daily News)をマクラッチー社(McClatchy)から買収した際の借入金5億6千万ドルの一部だ。ティアニー氏によると本業の経営は健全で利益も出しているため、新聞の発行は続けながら経営再建を目指すという。
ハースト(Hearst Corp.)も24日、同社傘下のハースト・ニュースペーパーズ(Hearst Newspapers)が発行する、144年の歴史を持つ『サンフランシスコ・クロニクル』(The San Francisco Chronicle)を、短期間に大がかりな経費節減ができなければ売却か廃刊すると発表した。
新聞社が危機に瀕しているのは米国だけではない。英国でも新聞社の広告売上は昨年、対前年比11.68%の落ち込みを見せた。英国最古のタブロイド紙『デイリー・メール』を発行するデイリー・メール&ジェネラル・トラスト社(Daily Mail & General Trust)の今年1月の広告売上は、全国紙で23%、地方紙で40%も下降した。フランスでも今年1月、サルコジ大統領が18歳になった若者に日刊紙を1年間無料で提供すると発表したが、これは活字メディアの支援策の一環だ。
MSNBC.comの社長チャーリー・ティリンガスト(Charlie Tillinghast)氏や、ニューヨーク・デイリー・ニュース(New York Daily News)の発行人でUSニュース&ワールド・リポート(US News & World Report)の編集長でもあるモート・ザッカーマン(Mort Zuckerman)氏は否定派だ。
肯定派は有料サイトの成功例としてウォール・ストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)やフィナンシャル・タイムズ(the Financial Times)を挙げるが、読者の多くが仕事上の必要から呼んでいるこれらの新聞以外に、有料化に成功している新聞サイトはないに等しい。肯定派はまた、ニュースに対する需要はいま、これまでにないほど高まっていると言う。確かに、米国の新聞サイトのトラフィックは昨年、12%伸びたし、MSNBC.comの今年1月のユニーク・ビジター数は、4,500万に達した。