A BUG IN YOUR EAR アメリカの広告・メディア事情 新聞

A BUG IN YOUR EAR アメリカの広告・メディア事情

大きな変革期にあるメディア業界、広告業界のこれからを考えるヒントになりそうな、アメリカの業界動向を紹介します。

ウォール・ストリート・ジャーナルの富裕層向けサプルメント

WSJ magazine

だいぶ以前から話題になっていたウォール・ストリート・ジャーナルのサプルメント誌(原文では “magazine”となっているが、市販されず新聞とともに宅配されるのでこう表記する)が明日(6日)、ついにデビューする。誌名は『WSJ.』で、ラグジュアリー・ライフスタイル・マガジンと形容されている。

新聞の豪華サプルメントというと、ニューヨーク・タイムズの『T franchise』の評判が芳しくなかった上に、いま米国の新聞業界は業績不振で「この世の終わりのような不安感」に包まれているというが、ウォール・ストリート・ジャーナルはそういうものとは無縁だと、編集者は自信満々だ。

この第1号には、時の人サラ・ペイリン・アラスカ州知事(共和党副大統領候補)のインタビューが掲載される。まさにドンピシャのタイミングだが、話題はもっぱら彼女の体作り(というかダイエット)に関することらしい。『WSJ.』のウエブサイトにその抜粋が掲載されている。

一部の地域で、正式な発行日を待たずに、しかもニューヨーク・タイムズのサプルメントとして配布されてしまうというハプニングもあったらしいが、『WSJ.』は全米17のトップ・マーケットのウォール・ストリート・ジャーナル購読者80万世帯と、アジア、ヨーロッパの16万世帯に配布される。当面は年4回で、来年からは毎月発行される予定。創刊号には51社が広告を掲載しており、そのうち19社はウォール・ストリート・ジャーナルにとって初の広告主であるとのこと。

◆情報ソース
No Angst or Shame in 'WSJ' Magazine Debut (Portfolio.com)
Whoops! 'WSJ' Magazine in Debut Snafu (Portfolio.com)
How 'WSJ.' Lucked Out with Sarah Palin (Portfolio.com)



米新聞社のオンライン広告に陰り

販売部数の低下、広告の減少、その結果余儀なくされた人員削減と、このところまったく良い所なしの米新聞業界にとって、頼みの綱だったオンライン広告の伸びが陰りを見せ始めた。頼みの綱とは言っても、オンライン広告は単価が安いため、部数低下や印刷版の広告の落ち込みをカバーできる水準にはほど遠い状況なのだが、それでも成長を続けるオンライン広告が唯一の明るい兆しであったのは確かだろう。

New York Times社が発表した7月の業績によると、同社のニュース・メディア・グループの広告売上は前年同月比17.9%減だった(同社のプレスリリースでは、その主な原因は印刷版の広告の落ち込みであると説明されている)。それよりも同社にとってショッキングだったのは、インターネット広告売上の成長率が1%に満たなかったことだ。

St. Louis Post-Dispatchなど、米中西部を対象とした新聞を発行するLee Enterprisesは、今年4-6月期のオンライン広告売上が前年同期比で9.1%減少した。同社はその要因を、主要カテゴリーで紙(印刷版)とオンライン両方の広告出稿額が落ち込んだためと分析している。

Tribune Co.は、4-6月期のオンライン広告売上が前年同期比4%減だった。同社の経営陣によると、Los Angeles Times、South Florida Sun-Sentinel、Orlando Sentinelといった同社の新聞が、カリフォルニア・フロリダ両州の景気の悪化と、自動車および不動産分野の広告減の影響を受けているためだという。

E.W.Scrippsが発行するRocky Mountain News、Memphis Commercial-Appealなどの新聞のオンライン広告は、同じく4-6月期で8%落ち込んだ。同社の役員Mark Contrenasによると、同社のオンライン広告は印刷版広告と関連しているものが68%と多く、その影響を受けて減少しているのだという。オンライン広告のみを出稿している広告主に限れば、同期の売上高は26%増だった。

E.W.Scripps社の説明のとおり、新聞社のオンライン広告の不調は、印刷版広告との抱き合わせ販売が一因となっているといえる。その証拠に30以上の日刊紙を発行する全米第2の新聞社McClatchy Co.の広告売上は、4-6月期で前年同期比12%以上の成長を見せた。同社のCEO、Gary Pruittが投資アナリストに語ったところによると、この成功の秘訣のひとつは、オンライン広告を印刷版から切り離したことだ。2006年末時点で、同社のオンライン広告売上の70%は、印刷版広告のアップセル(ある商品の付加価値/グレードアップ商品として他の商品を販売すること)、あるいは印刷版広告とのパッケージで販売したものだった。しかし現在は、印刷版広告主による売上は、ウエブ事業全体の50%まで下がっている。オンライン広告を主に利用する広告主の獲得に成功したからだ。

他の新聞社がMcClatchyに学ぶべき点は多いだろう。しかしいまは、景気後退による主要カテゴリーの広告投資額の落ち込みが事態をさらに深刻にしている。新聞業界を30年以上にわたり見てきた、Benchmark Co.のメディアアナリストEd Atorinoが「史上もっとも悲惨な状態」と呼ぶ新聞業界の冬の時代は、まだまだ続きそうだ。

◆情報ソース
Uh-oh, Where Did Those Newspaper Web Ads Go? (Advertising Age)
New York Times Shocker: Online Ad Growth Stalls (Advertising Age)
The New York Times Company Press Release




ニューヨークのライバル紙どうしが提携

ニューヨーク・ポスト(New York Post)を発行するニューズ・コーポレーション(News Corporation)のオーナー、ルパート・マードック(Rupert Murdoch)と、ニューヨーク・デイリー・ニュース(New York Daily News)の発行人、モーティマー・ズッカーマン(Mortimer Zuckerman)。ライバル同士のこの二人が、こともあろうに提携のための話し合いを進めていると、ニューヨーク・タイムズ(New York Times)がすっぱ抜いた。

この二者はともに、80億ドル以上の負債を抱えるトリビューン社(Tribune Company)が売りに出していたニューズデイ紙(Newsday)の買収合戦に参加。同紙は結局、両者を上回る6億5000万ドルを提示したケーブルビジョン・システムズ社(Cablevision Systems Corporation)の手に落ちたのだが、その直後の5月に、提携の話し合いは始まったという。

話し合いの中身は、コストを削減するために印刷、流通、宅配などのバック・オフィス機能を統合することで、それ以外の部分は独立性を保つとのこと。ニューヨーク・ポストは推定年間5000万ドルの損失を計上しており、マードック氏はこの損失を解消するためにニューズデイ紙とのジョイント・ベンチャーを実現させたかったのだが、それが叶わなくなったためにライバルとの協力に踏み出したらしい。デイリー・ニュースにしても収支がトントンの状態だから、提携話を進めて黒字に転換したいところなのだろう。

話は変わって、ニューズデイを売却したトリビューン社ではごたごたが続いている。同社が発行するロサンゼルス・タイムズ紙(Los Angeles Times)のCEO兼発行人、デイビッド・ヒラー(David Hiller)氏と編集部門の確執については6月11日のエントリーで触れた。彼は最近も、250名の人員削減(うち150名は編集部門)を発表したばかりだったが、その当人が辞めさせられることになったという。退任の理由は明らかにされていないが、上のエントリーで紹介した行いでトリビューン社のイメージを損ねたからではないかと、MediaPostは書いている。

◆情報ソース
The Daily News and The Post Talk Business (New York Times)
Final Edition: 'Chicago Tribune' Editor, 'LAT' Publisher Resign (MediaPost)
大変革に直面するロサンゼルス・タイムズ (A BUG IN YOUR EAR)



大変革に直面するロサンゼルス・タイムズ

米紙ニューヨーク・タイムズが2月19日付の記事で、ロサンゼルス・タイムズ(以降LAタイムズ)の現状を象徴するような、こんなエピソードを紹介している。

昨年、LAタイムズは、ハリウッド・ウォーク・オブ・フェームに名前を刻まれることになった。ショービジネス界で活躍した人の名前が刻印された星型のプレートが2000以上連なり観光名所となっている、あの歩道だ。2006年10月に親会社のトリビューン社(Tribune Company)からCEO兼発行人としてLAタイムズに送り込まれたばかりのデイビッド・ヒラー(David Hiller)氏は、喜んでプレート設置のセレモニーに参加し、それを記事にするように編集部に命じた。しかし、編集部からは見苦しい自画自賛の売名行為だとして猛反発を受け、ヒラー氏はこの命令を撤回せざるを得なかった。

当ブログの4月2日のエントリーでも触れたとおり、LAタイムズも、米国の新聞社の例にもれず販売と広告という両輪の不振にあえいでいる。親会社のトリビューン社は昨年、不動産王のサミュエル・ゼル(Samuel Zell)氏に身売りし、プライベート・カンパニーになった。ヒラー氏は経営を立て直し、新しいボス(ゼル氏)の信任を得なくてはならない。

一方、編集部門には、ヒラー氏に対して大きな不信感があるようだ。彼は、シカゴからロサンゼルスに来たよそ者であり、ジャーナリストの経験がない(法律事務所の出身)。ウォーク・オブ・フェームの件にしても、業績不振のときに余計な金など使っていられないだろうという皮肉な思いがあっただろう(ウォーク・オブ・フェームに名前を刻印されるには、ハリウッド商工会議所に25,000ドルを支払わなくてはならない)。

こうした経営サイドと編集部門の間の溝を深めるような出来事が続いている。先月、編集局長のジェームズ・オシー(James O’Shea)氏が、編集部門の人員削減案に反対して退任した。編集部門のスタッフは過去8年間に、1200名から870名まで削減されている。ミラー氏はさらに今年、40〜50名のスタッフ削減を行う考えだ。加えて今週月曜には、編集部門のNo. 2であるジョン・モントリオ(John Montorio)氏が、今月いっぱいで退任すると発表した。

ごたごたは続く。6月10日付のニューヨーク・タイムズ紙は、LAタイムズが、月刊のサプルメントその他、本紙以外の記事のコントロールを編集部門から経営サイドに移し、編集スタッフも総入れ替えをする計画を立てているというリーク情報を記事にした。すでに先月から動きがあり、編集局長のラス・スタントン(Russ Stanton)氏も知らない間に、編集スタッフが採用され、特集の企画が練られたり、表紙のデザインが作られたりしていたらしい。これが本当だとしたら、経営陣は編集に干渉しないという米新聞業界の伝統が破られたことになる。

そして今日(6月11日)、当のLAタイムズが、従来の編集部門は7月号以降、月刊サプルメントの編集を行わないと報じた。ニューヨーク・タイムズの記事のとおり、ヒラー氏は編集部門から独立したスタッフにより、新しいサプルメントを(早ければ8月から)出版するための話し合いを進めていたとのこと。

こうした騒動とは別に、トリビューン社のオーナー、サミュエル・ゼル氏とCOOのランディ・マイケルズ(Randy Michaels)氏は先週、同社傘下企業の発行する新聞(LAタイムズ、シカゴ・トリビューンなど13紙)の記事を週あたり合計500ページ削減し、広告との割合を50:50にすると発表した。LAタイムズは週あたり82ページ、記事を減らすことになる。記事を減らすということは、紙代や印刷コストの縮小につながるだけではない。その分の編集スタッフも不要になるということだ。ランディ・マイケルズ氏は、編集スタッフ一人あたりのコンテンツの生産性を精査した結果、余剰な人員が多数いることがわかったと述べているらしい。

ゼル氏とマイケルズ氏の連名で、トリビューン社の社員宛てに出されたメモには次のように書かれている。

当社のビジネスをつぶさに研究した結果わかったのは、現在の新聞のモデルはもはや機能しないということだ。次の2点に示した通り、当社のビジネスは供給と需要のバランスが崩れている。

1. 我々は読者に、読者が望むものを提供していない。
2. 我々は自分たちの許容量以上に大型の新聞を発行している。

まず、当社の出版ビジネスは―それは文字どおり、「ビジネス」である―顧客を中心としたモデルに作り直す必要がある。私たちはトリビューン社が過去数年にわたり行ったいくつもの読者調査を精査し、読者は以下のものを欲しているという、明白かつ一貫した分析結果にたどり着いた。

*バイアスのかかっていない、率直なジャーナリズム
*各地域の消費者や地域社会にかかわるニュース
*地図、図表、ランキング、統計

当社の新聞ではこれらの提供に成功しているものも、他紙よりもうまくできているものもあるが、それでもなお、当社のすべての新聞は、これらの分野での改善に取り組む必要がある。私たちは顧客を満足させビジネスに従事しており、顧客の欲求に応えていかなくてはならない。

(中略)

次に、私たちは新聞の規模を、広告主が望むものに戦略的に統一しなくてはならない。そのために、適正なサイズとして、広告と編集面の割合を50:50にしていく。これをベンチマークとして紙面を大幅に縮小し、コストを大幅に削減する。

私たちは、良質な製品を作ることと、許容できる製品を作ることのバランスを考えなくてはならない。

将来、中心的な収益源となるインタラクティブについても触れておきたい。当社は、eコマースからソーシャル・ネットワーキング、検索型広告にいたるあらゆるウエブ上のビジネスチャンスにおいて優位に立てるようなプラットフォームの開発の最終段階にある。

新しいプラットフォームはすべての事業に導入し、次なる繁栄のときに備える。新サイトは市場に合わせて、あるいは個々の読者に合わせてカスタマイズできるように作られているが、予算は限られており、収益をもたらすための投資であることをお忘れなく。

新しいウエブサイトは、まず当社のテレビ局からスタートして8月までに導入を終え、来年には各新聞も新サイトへの移行を行う。新しいサイトのサンプルは、KPLR-TV(セントルイス)のcw11tv.comで見ることができるだろう。

(中略)

これで、当社が「実行か死か」のチャレンジに直面していることがおわかりいただけただろう。我々は、このチャレンジをチャンスに変えるロードマップを手にしたのだ。



このトリビューン社の発表について、ニューヨーク・タイムズは賛否両論を紹介している。ガネット社(Gannette Company)の元会長・CEOのアレン・ニューハース(Allen Heuharth)氏は肯定派で、「ほとんどの新聞読者は、紙面のほんの一部分しか読んでいない」と述べている。対して、新聞アナリストのジョン・モートン(John Morton)氏は、「長期的には、新聞の生命線ともいえるブランドを損なうことになる」と否定的だ。編集陣のモラル(やる気)の低下を心配する声もある。

ニューヨーク・タイムズは次のようにも書いている。

LAタイムズが一流紙たり得たのは、国家あるいは世界にかかわる報道を行ってきたからだが、新聞業界の一部の経営陣はそうした記事は大衆にアピールしないという。海外ニュースや芸術面は熱心な読者には欠かせないものであり、そうした読者こそ広告主にとっては価値があるのではないか。トリビューン社の経営陣は、APやロイターなどの通信社への依存度を高めるのか否かについては言及しなかったが、そもそも通信社は、新聞社がより幅広く、より多くの地域を取材するために存在するのではなかったか。もし、新聞の紙面が通信社のニュースで埋められるようになったら、グーグルやヤフーから手軽にニュースを手に入れられる読者にとって、魅力ないものになるだろう。

このコメントは、ニューヨーク・タイムズの記者の自戒のようにも読める。新聞の縮小とウエブへのシフトを鮮明にしたトリビューン社の業績が今後、どのように変化していくのか。新しい紙面が、広告主にどのように受け止められるのか、注目していきたい。

◆情報ソース
For Publisher in Los Angeles, Cuts and Worse (New York Times)
Change of Control at the Los Angeles Times Magazine (New York Times)
L.A. Times editorial staff will stop producing monthly magazine (Los Angeles Times)
Uncertainty as Tribune Prepares to Retrench (New York Times)
Tribune Papers to Adopt 50/50 Ad Ratios (Advertising Age)
Sam Zell and Randy Michaels memo (Pointeronline)
ニューズウィーク誌が大規模な人員削減 (A BUG IN YOUR EAR)



新聞社編集責任者調査:56%がニュースは無料になると回答

世界新聞協会(the World Association of Newspapers: WAN)内に設けられた、編集者のネットワークWorld Editors Forumはロイターと共同で毎年、世界の新聞社の編集責任者を対象に新聞の将来像に関する調査「Newsroom Barometer」を行っている。今年3月に行われた調査は、World Editors Forumのデータベースに登録された編集長およそ7000名にメールで回答依頼を送り、オンラインで実施された。約120カ国から713名の回答があった(調査を担当したのはZogby International)。以下はその結果の抜粋。

●86%は、今後5年以内に、プリントとオンラインの両方に対応した複合型の編集室が標準になっていくと考えている(北米の回答者に限定すると95%)。また84%が、今後5年以内にジャーナリストは、すべてのメディアに向けてコンテンツを提供できる能力が求められるようになると考えている(北米の回答者に限定すると91%)。
●44%もの回答者が、ニュースのプラットフォームはオンラインになるだろうと答えている。(プリント版と回答した人は31%、携帯が12%、電子新聞が7%)。
●編集の質を高めるための最優先課題は、ニューメディアに対応できるようジャーナリストを教育することだと答えた人が35%。より多くのジャーナリストを採用することがと答えた人が31%だった。
●回答者の過半数―56%―は、ニュースは将来、無料化されるだろうと考えている(昨年の調査では48%だった)。現在のまま有料で提供されると考えているのは、回答者の3分の1に過ぎなかった。
●今後、ジャーナリズムの質は向上すると考えている編集者はわずか45%、逆に劣化すると考えている編集者は28%だった。
●3分の2は今後、opinion(意見)とanalysis(分析)のページの重要性が増すと考えている。
●新聞の未来にとって最大の脅威は、若年層の読者の減少だと答えた人が58%だった。

この調査の回答者の48%が編集長(editor-in-chief)、18%が編集主幹(managing editor)と、7割近くが編集のトップであることを考えると、ジャーナリズムの質は向上すると考えている人が半数以下という結果はなんともお寒い。また、56%がニュースは無料になると考えているとのことだが、その収益を補うビジネスモデルはどの新聞社でも確立できていない。新聞の未来にとって最大の脅威は、若い読者の減少ではなく、こうした現状によって有能な人材の流出が進むことなのではないだろうか。

◆情報ソース・参考資料
Newsroom Barometer 2008 (Editors weblog - World Editors Forum)
ニュースの送り手はいなくなるのか (A Bug in Your Ear)



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