A BUG IN YOUR EAR アメリカの広告・メディア事情 はじめに

A BUG IN YOUR EAR アメリカの広告・メディア事情

大きな変革期にあるメディア業界、広告業界のこれからを考えるヒントになりそうな、アメリカの業界動向を紹介します。

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米ハーストがラガルデールの雑誌買収で合意

昨年12月7日と今年1月6日のエントリーで書いた、仏ラガルデールの海外雑誌ビジネス売却劇だが、米出版社ハーストが、15カ国102の雑誌のすべての権利と『エル』(ELLE)の出版権を6億5100万ユーロ(8億9200万ドル=約730億円)で買い取ることで合意に達したと、アドバタイジング・エイジ(Advertising Age)が報じている。『エル』だけは、ラガルデールはすべてを手放すことはせず、ハーストは『エル』の出版によりもたらされる売上に応じたロイヤリティをラガルデールに支払う。対象となる15カ国・地域とは、米国(Hachette Filipacchi Media)、日本(アシェット婦人画報社)のほか、英国、イタリア、スペイン、ロシア、ウクライナ、中国、香港、オランダ、チェコ、メキシコ、台湾、カナダおよびドイツ。

これらの雑誌の昨年の売り上げ合計は7億7400万ユーロ(869億円)、金利税引き前利益(EBIT)合計は4960万ユーロ(5億5700万円)だった。この業績だとEBITマージン(売上高利益率)は6.4%で収益性が高いとは言えない(10~15%が健全な水準とされる)。また、ハーストによる買収額はEBITの13.1倍で、安い買い物とは言えない(9~11倍が相場とされる)。しかし、アドバタイジング・エイジは、「ハーストは大幅なコスト節減=EBITマージンの改善が可能と考えているはず」との投資銀行担当者の見方を伝えている。ハーストは、今年第3四半期(7~9月期)までに取引を完結させる見通しだという。

上記以外の国はどうなるのか、『エル』の編集にラガルデールは口を出さないのか等、詳細は公表されていない。

ハースト(Hearst Corporation)はニューヨークに本社を置き、全米で15の日刊紙、49の週刊紙を発行しているほか、全世界で200近い雑誌を出版し、テレビ放送局、ケーブル局も所有するメディア・コングロマリットである。米国では、マリ・クレール(marie claire)、ハーパース・バザー(Harper’s Bazaar)など、『エル』と直接競合する雑誌を出版している。

Hearst Leaps to New Level With Deal for Lagardère Magazine Portfolio (Advertising Age)
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Condé Nast Portfolio廃刊の原因は?

すでに伝えられていることだが、去る4月27日、コンデナスト社の大型ビジネス誌『コンデナスト・ポートフォリオ(Condé Nast Portfolio)』(以下『ポートフォリオ』)の廃刊が発表された。非常にスタイリッシュで、脂ぎったところのない知的なビジネス誌として注目していただけに残念なニュースだ。わずか2年前に鳴り物入りで創刊されたこのビジネス誌が、廃刊に至った原因を『アドバタイジング・エイジ(Advertising Age)』が記事にしている。

CondeNast Portfolio cover


『ポートフォリオ』は「スマートで、本質を突き、いくらかのセックスアピールもある」ビジネス誌を目指して、2007年4月に創刊された。それは2005年8月に、コンデナスト社のサイ・ニューハウス(Si Newhouse)会長が、新ビジネス月刊誌の創刊に向けて、ジョアンヌ・リップマン(Joanne Lipman)を編集責任者、デイビッド・ケアリー(David Carey)を発行人として指名した時からのコンセプトだった。当時は経済状況も良かったため、コンデナスト社は創刊までに長い時間をかけた。それが最大のまちがいのひとつである。それから創刊までのおよそ2年間、人材の確保、企画、プロモーションに巨額の投資をしている間に、「セクシー」の意味するものが変容してしまった。つまり、テストイシューが発刊されてから、月刊誌としてスタートするまでの4カ月の間に、景気は後退期に突入してしまった。そして、2008年から今年にかけて、『ポートフォリオ』の掲載広告の80%を占める5つのカテゴリー(金融サービス、B2B、車、ビジネス・トラベル、高級品)の市場は急速に冷え込んでいった。

景気後退の影響で廃刊に追い込まれた雑誌は、『ポートフォリオ』以外にも数多くある。コンデナスト社の『ドミノ(Domino)』もそのひとつだ。しかし、広告ビジネスの不調が『ポートフォリオ』廃刊の原因のすべてではないと指摘する人もいる。

2007年初めから昨年8月まで『ポートフォリオ』の編集者だったジェフリー・チュー(Jeffrey Chu)氏は、リップマン編集長の指導者ぶりに疑問を投げかける。「入社前に彼女は、あらゆるものをビジネス・ストーリーにしていくと語っていたが、編集部に入ってみるとそれは違った。実際は、富裕層の人たちや、ヘッジファンドや財テクなど金持ちが喜ぶ話題ばかりを記事にするように強いられた。ある程度知られている世界の人たちを取り上げ、その人たちを豪華に飾り立てるような記事ばかりだった。」他の編集者にもチャンスを与えてほしいと願っていたスタッフはたくさんいる、とチュー氏は言う。

対してリップマン編集長は、自分の編集上、組織管理上の決定に間違いはなかったと反論し、「新しいものを生み出すために、スタッフには自分が快適だと感じるものから踏み出すことを強いた。そのために高いハードルを設定したから、それを不愉快に感じた人はいただろう」と語っている。発行人のケアリー氏も編集に問題はなかったと言い切る。「(廃刊が決まった後)企業のCEO、CMOをはじめ多くの人たちから、『ポートフォリオ』を読むのが楽しみだったというメールが山ほど届いた。」

『ポートフォリオ』の編集内容が評価されていたのは確かだ。同誌は昨年、ナショナル・マガジン・アウォードを受賞したほか、ビジネスジャーナリズムにおいて最高の賞と言われるジェラルド・ローブ賞でも3部門にノミネートされた。読者も間違いなく獲得していた。昨年下半期の同誌の有料予約購読者の数は、上半期よりも43%多い335,612人に達した。同じ時期に、店頭実売数は11%下落したが、それは多くの人が予約購読に移行したからだとコンデナスト社は分析していた。しかしこのころ、同社は2009年を乗り切るために『ポートフォリオ』の多くのスタッフをレイオフし、発行回数を年回12号から10号に減らす決断をした。ウエブサイトの運営にかける人員も大幅に減らした。その影響か、昨年11月に月間170万人まで増えたユニークビジター数は、今年3月には957,485人まで減少した。

コンデナスト社は、『ポートフォリオ』の創刊に莫大な投資を行った。当初の予定投資額は、5年間で1億ドルと言われている。同誌のスタッフ数はピーク時に140名を数え(人員削減後も85名が働いている)、高収入の編集者たちは、会社の経費で高級レストランでのランチを楽しんでいた。一方、予約購読者には年間12ドル(1号あたり1ドル)という廉価で雑誌を販売したため、広告収入に大きく依存せざるを得ない財務体質になっていた。

Media Industry Newsletterによると同誌の今年1‐4月期の広告集稿ページ数は、昨年同期のわずか39%まで落ち込んだ。昨年の方が発行回数が1号多いことや、コンデナスト社が他社に比べディスカウント率が低いことを勘定に入れても、致命的な下げ幅である。

莫大な投資と長い期間をかけて揺るぎない雑誌ブランドを築き上げ、その後販売と広告の両面で安定した売り上げをあげ資金回収を行っていくのが、これまでのコンデナスト流だった。しかし、雑誌を取り巻く状況も読者や広告主の認識も大きく変わりつつある。『アドバタイジング・エイジ』が書いているように、コンデナスト流で創刊される雑誌は二度と現れないのかもしれない。

◆情報ソース
Down Market: Conde Nast Shutters 'Portfolio' (MediaPost)
Why Conde's Cocktail of Sex Appeal, Biz News Failed (Advertising Age)

タイム社の雑誌がウォルマートから消える

1月19日のエントリーで、雑誌の小売店への配送を請け負う取次企業の大手、アンダーソン・ニュース(Anderson News)社が、配送手数料を雑誌一部あたり7セント値上げし、これに応じない出版社の雑誌は配送しないと発表したことを伝えた。

私が見逃していたのか、追いかけで発表したのか、アンダーソン・ニュースばかりでなくソース・インターリンク社(Source Interlink Cos.)も雑誌配送1部あたり7セントのいわゆるサーチャージを要求していたらしい。

この2社のシェアは、全米の小売店で売られる雑誌のおよそ半分にもなる。そのすべてにサーチャージがかけられると、雑誌社は新たに年間総計1,500万ドルもの負担を強いられることになる。

これに対して、『ピープル(People)』、『スポーツ・イラストレイテッド(Sports Illustrated)』などの版元タイム社(Time Inc.)、『イン・タッチ(In Touch)』、『ライフ・アンド・スタイル(Life & Style)』などの版元バウアー・パブリケーションズ(Bauer Publications)、そして『スター(Star)』、『ナショナル・エンクワイアラー(National Enquirer)』の版元アメリカン・メディア社(American Media Inc.)は、サーチャージの支払いを拒否し、上記2社への納品をストップしてしまった。

その結果、どうなったか。全米最大の雑誌小売店であるスーパーマーケットチェーンのウォルマート4,200店の大半の店頭から、これらの出版社の雑誌が消えてしまうことになりそうだという。

取次サイドにしてみれば、サーチャージの要求は、苦しい経営事情に耐えかねての苦渋の決断だったらしい。ソース・インターリンクは、取次事業から撤退するとの報道もあったが、同社は否定している。いま以上のコスト負担に耐えられないのは出版社にしても同じだ。両者とも問題の解決に向けて動いているというのだが…。読者にとっても迷惑な話である。

◆情報ソース
Mag Wholesaler Denies it Will Exit Business (MediaWeek)
NO PEOPLE AT WAL-MART (New York Post)



はじめに

メディア業界、広告業界がいま、大きな変革期のさなかにあることを否定する人はいないでしょう。先だって開かれたダボス会議では、未来学者たちのパネルで、紙に印刷されたスタイルの新聞は2014年までに消滅するだろうとの予測が披露されたとのことですが、この予測をSFめいた話として一笑に付すことができないほど、私たちが直面している変化の波は大きく急速なものです。

この変革期の果てにどのような世界が待ち受けているのか、マーケティング・コミュニケーションはいかに変貌していくのか、正確に言い当てることは不可能でしょうが、それでも私たちは日々の業務をこなし、将来に備えて準備をしていかなくてはなりません。では何をすべきか。そのヒントを、いま現在起こっていることの中から読み取ることはできるはずです。

このブログでは、特にアメリカの業界動向に焦点をあて、業界誌やウエブなどを情報源に、読者の皆さんの参考になりそうなニュースをピックアップして紹介していきたいと思います。なぜアメリカなのか。それは、昨今なにかと評判の悪いアメリカですが、メディアや広告のダイナミズムにおいて、いまなお世界の他の地域をリードしており、我々が参考にできる点が多々あると思うからです。

紹介にあたっては、情報源に記されていることの要約にとどめ、できるかぎり私見を交えないようにしたいと考えています。同じニュースでも読む人によって目の付けどころは違うでしょうし、そこから学ぶことも異なってくるはずなので、下手に私見を交えることでバイアスをかけるべきではないと思うからです。とは言っても、どのニュースを選び、どの部分を紹介するかには、私の興味が反映されざるを得ないのですが。

ブログ名は、”put a bug in someone’s ear” (ヒントやアイデアなど役に立つ情報や助言を耳に入れる・示唆する、という意味)という慣用句からとりました。このタイトルのとおり、当ブログが多少なりとも皆さんのお役にたてば幸いです。内容には細心の注意を払っていきますが、私はプロの翻訳者でも研究者でもないので、中には誤訳や事実誤認があるかもしれません。お気づきの点があれば、ぜひご遠慮なくご指摘ください。その他、ご意見、ご要望などありましたらぜひお聞かせください。

テーマ:ビジネス - ジャンル:ビジネス

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