デジタル・メディアの立ち上げには巨額の費用がかかる。携帯電話のサイトも同様だ。出版社やテレビ局などの旧来型メディア企業の多くが、広告の不振をデジタル・メディアで補う道を模索しているが、思うように収益が上がらず苦しんでいる。確かに雑誌社のオンラインでの広告売上は拡大してはいるものの、ボトムラインを改善するまでにはいたっていない。大手監査・コンサルティング会社PricewaterhouseCoopersによると、米国の出版社のオンライン広告売上は、広告売り上げ全体のわずか3.8%にすぎない。
せっかく用意したオンライン広告枠を効率的に販売できないことも、出版社の大きな悩みとなっている。その有効な解決策として注目を集めたのが、外部の広告ネットワークだ。過去7年程の間に、多くの出版社が本格的にオンライン事業に乗り出し、それとともに広告枠の売れ残りも増えていった。同時に、広告ネットワークの数も、投資銀行ThinkEquity Partnersの統計によると50足らずから300以上に急増した。
Men’s Health、Prevention、Runner’s Worldなどの健康誌や専門誌を出版し、そのオンライン版を運営するRodaleも、広告ネットワークに助けを求めた。同社は2年前、プリント版とデジタル版の広告営業を統合し、デジタルビジネスを全広告売上の10%以上を計上する水準にまで成長させた(同社によると、今年6月のデジタル広告売上は、昨年同期比で11%の成長を果たした)が、広告枠の売れ残りの問題に直面し、今年3月、一部を外部の広告ネットワークにゆだねる決断をした。
しかし、新たな問題が浮上した。Rodaleが独自の営業である自動車メーカーに提供したサイトに、ネットワークの配信する競合メーカーの広告が表示される事故があった。ファーストフードチェーンの広告が、(ファーストフードに否定的な)栄養学を説くページに配信されてしまったこともあった。最悪なのは、Women’s Health誌の英語サイトに、不注意のためにスペイン語の広告が配信されてしまったケースだ。広告内容の管理が行き届かないという問題もある。イメージを重視する雑誌のサイトに、いかがわしい商品やサービスの広告が表示されては、雑誌ブランドに傷をつけることにもなりかねない。結局、Rodaleはわずか6週間でネットワーク広告の契約を打ち切った。
広告ネットワークやアド・エクスチェンジ(広告主が、個人サイトを含めたオンライン・メディアの広告枠に対して入札して出稿するオンライン広告取引システム)事業者との取引に危機感を覚え、契約を打ち切る媒体社は増えている。Martha Stewart Living OmnimediaのCEO、Wenda Millardは、今年2月に行ったスピーチで、「広告枠を豚バラ肉のように売るべきではない」と訴え、他の出版社も外部に広告のコントロールを任せることの危険性を認識するよう呼びかけた。
Martha Stewart Living Omnimediaは外部のネットワークに頼るのではなく、昨年11月、自社サイトを中心にライフスタイル分野に絞った広告ネットワークMartha’s Circleを立ち上げた。現在、このネットワークにはおよそ35のサイトやブログが連なっている。Hearstも自社の20ほどのサイト群を「Portfolio of Experts」と名付け、広告ネットワークとしてアピールしている。経済誌『Forbes』のデジタル部門Forbes Digitalも昨秋、同社が選別したRealClearPolitics.comやInvestopediaなどのサイトを束ねる広告ネットワークを立ち上げた。
Conde Nast社はあくまでも自社運営にこだわる。同社のオンライン部門、CondeNetは、広告ネットワークに対抗して営業チームの再編に着手した。これまで営業チームは、Style.com、Epicurious、雑誌サイトなどのプロパティによってグループ分けされていたが、今後はコンテンツのカテゴリーによってグループ分けされ、プロパティを横断して営業活動を行うという。同社のサイトのひとつ、Epicuriousは6月に190万近いユニークビジター数を記録した(出所はComScore Media Metrix)。他のサイト、Conciergeの6月のビジター数で622,000、Style.comは413,000、Men.Styule.comは331,000だった。今回の組織再編によって、広告主はCondeNetの一人の担当者とコンタクトするだけでこれら複数のサイトを横断して広告を出稿することができる。
広告ネットワークそのものを買収してしまうという、思い切った策を取った出版社もある。
アシェット・フィリパッキは昨年4月、車分野に特定した広告ネットワークJumpstart Automotive Mediaを、8,400万ドルを投じて買収した。 一方、Time Inc.は社内に営業部隊を持つのと同時に様々なネットワークへのアウトソースもしており、オンライン広告をどのように販売すれば良いか「山ほどの分析」を行っているという。同社はGlamやプレミアム・コンテンツへの広告掲載を売り物に近年台頭してきたShortTail Mediaのように、プレミアム・コンテンツへの広告掲載を橋渡しするニッチな企業に注目している。
◆情報ソース
Special Report: Publishers Rethink Third-Party Pacts (Mediaweek)
CondeNet Positions to Better Compete With Ad Networks (Advertising Age)
先週、
6月19日のエントリー で、2つの出版社アシェット・フィリパッキ・メディア(Hachette Filipacchi Medias)U.S.とハースト社(Hearst Corp.)のトップ退任を伝えたが、その背景には印刷媒体からデジタルへの本格的な戦略転換があるのではないかと、MediaPostが伝えている。
まずアシェットだが、ホールディング・カンパニーのラガルデール(Lagardere)はデジタル分野の売上げ拡大を今年の戦略上の最優先課題に掲げており、来年までに総売上に占めるインターネット事業のシェア目標を10%と設定しているという。新CEOとなるAlain Lemarchand氏は、このミッションを実現するためにラガルデール本社から送り込まれるのだという見立てだ。
この戦略に沿った動きはすでにはじまっていたのかもしれない。当ブログ
5月13日のエントリー では、アシェットのデジタル部門で大がかりな再編が行われ、トップ(担当バイス・プレジデント)の交代に伴って15名のスタッフが同社を去ったとお伝えしたが、これもインターネット事業の成長率に経営サイドが満足しなかった結果らしい。この再編で新デジタル・メディア担当バイス・プレジデントとしてアシェットに迎え入れられたTodd Anderman氏は先週、同社最大のウエブサイト
Woman’s Day を皮切りにすべてのサイトを年内に一新すると発表した。
どのように一新するのかは明らかにされていないが、Anderman氏は雑誌(プリント版)の編集スタッフがウエブサイトのコンテンツづくりにも深くかかわるようになり、デジタル部門のスタッフは技術、製品開発、マーケティングに専念していくと述べている。同社ではすでに、この方針に沿って、上記の15名に代わって11名の新スタッフを採用している。
アシェットはラガルデールの傘下になった直後の2001年にもデジタル化の方針を鮮明にし、世界的に女性誌ELLEのウエブサイトをはじめとして大がかりなてこ入れを行ったが、はかばかしい結果を得ることができなかった。同社にとってフランスに次ぐ世界第2の市場である米国で、ラガルデールの直接統治が進行している背景には、こうした事情があるのかもしれない。
ハースト社でも今年初め、デジタルへの本格的転換を予感させるような出来事があった。2月に、雑誌系ウエブサイトの広告・マーケティングの責任者だったPamela Raley氏が入社後わずか1年で退任させられ、ティーン誌
CosmoGirl の創刊編集長であり同誌のデジタル化を推進したKristine Welker氏が後任となったのだ。ハースト社のCEO、Victor Ganzi氏の突然の退任発表も、この転換が原因なのではないかとMediaPostは推測している。
コンデナスト・インタラクティブ(Condé Nast Interactive)でも今年2月、広告営業担当バイス・プレジデントの交代劇があった。さらに先週、
CondeNet のクリエイティブ・ディレクターを2003年から務め、
Men.style.com の立ち上げでも中心的な役割を果たしたMark Jarecke氏が、理由を明らかにしないまま退任した。
これら一連の動きは、MediaPostが推測するように雑誌社が紙からデジタルへ本格的に舵を切ったことの現われなのではなく、どうも雑誌社がデジタル以外に活路を見いだせずにいて、しかもその頼みの綱のデジタルで思うように売上げを伸ばせないことへのあせりがあるのではないかと思われる。
同じMediaPostの記事が紹介しているように、監査・コンサルティング会社プライスウォーターハウス・クーパーズ(PricewaterhouseCoopers)は、雑誌社のインターネット事業の売上が今年、前年比63%増の3億4,200万ドルに達すると予測しているが、これはインターネット広告市場全体の4%にしか過ぎない。しかも、インターネット広告市場の41%は検索型広告によるもので、そのうち、ソースによってばらつきはあるが68%〜76%はグーグルの売上である。IAB(Interactive Advertising Bureau)の統計によると、今年第1四半期(1〜3月)のインターネット広告売上は昨年同期比18.2%増の58億ドルに達したが、検索型とその他の広告の差は広がっており、このうちディスプレイ広告の売り上げは20億ドルにとどまった。
加えて、ここにきてインターネット広告の成長率に鈍化の傾向が見える。インターネット広告の売上は13四半期連続で直前の四半期を上回ってきたのだが、今回初めて下回る結果になった。昨年第4四半期(10〜12月)のインターネット広告売上は59億ドルで、上記の数値よりも多かった。もちろん、毎年第4四半期はクリスマスシーズンということもあって広告量が増えるのだが、昨年は第1四半期にその前年の第4四半期よりも多くの予算がインターネット広告に投じられたのだ。(※以上はすべて米国内の数値)
上記の結果については、景気の影響があるので軽々には断定できないが、ネットへの過度な、あるいは安易な依存・シフトは危険である。
◆情報ソース
Mag Turnover Points to Digital Future (MediaPost)
Hachette to Relaunch All Titles' Sites by Year End (Mediaweek)
IAB Ad Revenue Report Shows Mixed Trends (ClickZ)
アシェットがデジタル部門を再編? アシェットとハーストの経営トップが退任
ボニエル社(Bonnier Corp.)が発行する育児雑誌『ペアレンティング(Parenting)』は、定期購読者が提携サイトで商品を購入すると、購入費用の一部をキャッシュバックするプログラム「Parenting Privileges」をスタートさせた。
利用者は
Parenting Privileges.com で定期購読アカウント・ナンバーを入力し、リンク先のショッピングサイトで買い物をするだけ。リンク先(提携サイト)には、
ToysRUs.com 、
Disney shopping.com 、
GAP.com 、
Diapers.com 、
Target.com 、などが名を連ねている。キャッシュバックの割合は提携サイトによって異なるが、だいたい5〜7%。Parenting Privileges.comは、「最大20%」を売り文句にしている。キャッシュバックは現金ではなく、VISAのプリペイドカードで提供される。定期購読者でない人も90日のお試し期間が利用可能。どれだけお得なサービスか実感した上で定期購読をお申し込みください、という仕組みだ。
これは、ただの定期購読者向けサービス/雑誌販促プログラムではないようだ。『ペアレンティング』は利用者(育児中の母親)の購入データを収集・分析して、広告主に提供するという。メレディス社(Meredith Corp.)発行の競合雑誌『ペアレンツ(Parents)』が今年、昨年同期比12.4%増と広告を伸ばす一方、同誌は同1.2%減と苦戦している。(広告ページ数による比較。データソースはMediaweek Monitor。)
ちなみに、ボニエル社の母体は200年の歴史を持つスウェーデンの最大手出版社で、昨年1月、タイム社(Time Inc.)が経営立て直しのために売りに出していた『ペアレンティング』をはじめ『ベビートーク(Babytalk)』、『フィールド・アンド・ストリーム(Field & Stream)』、『ポピュラー・サイエンス(Popular Science)』、『アウトドア・ライフ(Outdoor Life)』など18誌を、2億ドルを投じて買い取った。
買収した雑誌はその後、『ペアレンティング』に限らず広告の売上げで苦戦しているようだ。この点について、ボニエル・グループのCEO、Jonas Bonnier氏は今年5月、アドバタイジング・エイジのインタビューに応えて、買収を通じて出版事業を成り立たせていくためには長期的な取り組みが必要であると語るとともに、雑誌をウエブ化することには否定的な見方を示し、別の形でウエブ事業に投資していくつもりであると述べている。
◆情報ソース
Bonnier Launches 'Parenting Privileges' Program (Mediaweek)
Bonnier CEO: 'We Don't Want to Be Time Inc.' (Advertising Age)
出版社アシェット・フィリパッキ・メディアU.S.は、自社の発行する雑誌をshelter(家のインテリア・エクステリア、改装・改築:Metropolitan Home、Elle Décor、Home、Budget Decoratingなど)、automotive(車雑誌:Car and Driver、Road & Track)、fashion(ファッション誌:ELLE)、women & health(女性のライフスタイルと健康:Women’s Day)などのグループに分け、それぞれにウエブ事業の強化を進めている。
昨年4月にはshelterグループのハブとなるサイト
PointClickHome.com を立ち上げ、サイト内検索広告とスポンサーシップの販売を始めた。その後10月には同サイトにショッピング用検索エンジンTheFind.comのサービスを組み入れ、さらに今年4月、インテリア・デザインと室内装飾のサイトDesignMyRoom.comと提携し、スポンサー企業の製品をユーザーがドラッグ&ドロップで仮想空間に配置し、様々な組み合わせを試すことができるようになった。
Automotiveのグループでは、昨年4月に車分野に特定した広告ネットワークJumpstart Automotive Mediaを、8,400万ドルを投じて買収。NADAguides.com、Vehix、JD Power & Associates Autos、How Stuff Works/Consumer Guide Autos、Shopping.com Autoなどの既存サイトに上記の車雑誌のサイトを組み入れて広告枠の販売を行っている。また、今年
2月22日のエントリー で紹介したように、女性向けサイト/ブログの大手運営会社グラム・メディア(Glam Media)と提携し、同社に映画情報サイトPremiere.comの広告販売を委託する一方で、コンテンツの提供を行っている。
このようなアシェット・フィリパッキ・メディアのウエブ事業を推進してきたのは、2005年に同社に招き入れられ、デジタル・メディア担当のヴァイス・プレジデントまで登りつめ、アドバタイジング・エイジで “
Women to Watch 2007(2007年注目の女性 )”の一人として取り上げられたMarta Wöhrleという女性なのだが、昨年末、彼女はアシェットを去った。退職の理由はわからないが、いまは独立してサイトの運営を行っているらしい。
今年1月、Marta Wöhrle女史の後任として、Maxim DigitalにいたTodd Anderman氏がヴァイス・プレジデントに就任した。そして先週金曜(5月9日)、Anderman氏による組織再編の一環だと思われるが、アシェットはデジタル部門のスタッフ15名を削減すると発表した。アシェットは詳細を明らかにしていないが、その中には
Elle.com のプロデューサー、
Ellegirl.com のファッション・エディターとシニア・エディター、
Premiere.com の映画評ライターなどが含まれているらしい。
ボスが入れ替わるとスタッフまでが刷新されるケースは欧米の企業では珍しくない(日本でも珍しくなくなっている?)が、それにしても…である。デジタルの世界同様、それを動かす組織も目まぐるしく移り変わっている。
◆情報ソース
Hachette Goes for In-Market Decorators with New Online Home Hub (The ClickZ Network)
Hachette Enters Content/Ad Sales Deal With Shopping Engine (Mediapost.com)
PointClickHome.com Partners With DesignMyRoom.com (Reuters)
Hachette to Buy Jumpstart (Mediaweek)
Todd Anderman Named SVP Digital Media at Hachette, Replacing Marta Wöhrle (Min Online)
THE WEB CUTS JOBS, TOO (WWD.com)
米経済誌『フォーブズ』のウエブサイト
Forbes.com は、シスコシステムズの協力によりAnswerNetworkというソーシャル・ネットワークを立ち上げた。
ソーシャル・ネットワークといっても、その機能は企業経営者が情報を共有するために特化されている。ユーザーはネットワーク参加時に自分のプロフィールと質問を受け付ける専門分野を登録する。あるユーザーから投げかけられた質問は、分野、経験、緊急度、重要度、言語によって分類され、最適な回答者と思われる他のユーザーたちに送信される。そうして寄せられた回答は、ユーザーによってランク付けされ、回答者の評価となるという仕組みだ。AnswerNetworkではこの他に、音声や動画によるサービスや “Meet the Experts”と名付けられた専門家とのセッションなどのサービスが提供される。
今年になってビジネス誌によるSNSの立ち上げが続いている。2月には『ファースト・カンパニー』が「ジャーナリズムとオンライン・コミュニティの融合」と銘打ち、
FastCompany.com でMansueto Digital社のプラットフォームを使ったネットワークを開始した。このSNSでは、メンバーは自身のブログを開設し、編集者の投稿した質問に回答し、あるいはオンライン上でディスカッションを行って、情報の共有と蓄積を行う。
3月には『ビジネス・ウイーク』がビジネス特化型のSNS、LinkedInと提携して
BusinessWeek.com のユーザー向けのサービスを開始した。同サイトのユーザーは、LinkedInのCompany Insiderで取り上げられた企業のコンタクト先を知ることができる。一方、
LinkedIn.com のユーザーは、BusinessWeek.comの提供する統計や企業情報を閲覧することができる。LinkedInは、米国のみならず世界およそ130カ国で900万を超す企業人が利用しているといわれる。提携先や投資担当者を探す際、あるいは求人、求職を行う際などに非常に便利なサイトだ。(ちなみに、日本からの参加者は2%未満とのこと。)
◆情報ソース
Forbes.com, Cisco Roll Out AnswerNetwork (Mediaweek)
Forbes Launches Peer-to-Peer Social Network (Foliomag.com)
Fast Company Launches Online Networking Platform (Foliomag.com)
BusinessWeek Partners with LinkedIn (Foliomag.com)
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