A BUG IN YOUR EAR アメリカの広告・メディア事情 2008年12月

A BUG IN YOUR EAR アメリカの広告・メディア事情

大きな変革期にあるメディア業界、広告業界のこれからを考えるヒントになりそうな、アメリカの業界動向を紹介します。

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雑誌社の新たなジレンマ

米国のメディア・広告業界は2001年以来といわれる不況に突入しつつある。11月5日のエントリーで書いたように、雑誌業界でもレイオフをはじめとする経費削減策に着手する企業が相次いでいる。その標的となっているのは、一時は雑誌社の将来を担うと期待されたオンライン部門だ。

上のエントリーでも書いたが、コンデナスト社(Condé Nast)ではビジネス誌『ポートフォリオ(Portfolio)』のスタッフが、30名からたった5名に縮小された。同誌は今年、およそ2千万ドルの赤字を計上している。ウエブサイトを加えるとその額ははるかに大きくなる。

タイム(Time Inc.)では全社的に進められる600名規模のレイオフの一環として、『フォーチュン(Fortune)』のウエブ・スタッフが社を去ることになり、コンテンツの制作は同サイトの母体であるCNN Moneyのスタッフが引き継ぐことになった。とはいえ、『フォーチュン』オリジナルのコンテンツは大幅に減ることになりそうだ。『フォーブズ(Forbes)』でもForbes AutoやForbes Travelerを担当するウエブ・スタッフの大がかりな削減が行われた。

コンデナスト社のあるパブリッシャーがニューヨーク・オブザーバー(The New York Observer)の取材に答えて「オンライン版のトラフィックを増やしても、それが売上に結びつかなければ意味がない」と述べているとおり、ウエブ・スタッフの削減は目の前の売上を見込める印刷版を優先した結果だ。つまり雑誌本体の延命策でもある。

ところが、広告予算が削減される中、ウエブをはじめとする雑誌社の資産に広告主が大きな期待を寄せていると、『アドバタイジング・エイジ(Advertising Age)』が報じている。

以前、広告主が媒体社をマーケティング・パートナーと見なすようになりつつあるという同紙の記事を紹介したが、マーケティング予算の縮小を補えるようなサービスと資産を有する出版社に対して、広告主は集中して予算を投下するようになるというのだ。

媒体社を対象とするコンサルティング会社、アドバタイザー・パーセプションズ(Advertiser Perceptions)は今年10~11月に、広告主企業のマーケティング担当者と広告会社の役職者1606名を対象に調査を実施した。その結果、「経済情勢が企業のレイオフを加速させ、人員不足に陥った広告主はリソースを外に求めるようになる」と予測している。

広告主が求めているのは、雑誌社が自社の資産を広告主のニーズに合わせてカスタマイズして提供するサービスだ。タイム社のコーポレートセールスおよびマーケティング担当プレジデントのレスリー・ピカード(Leslie Picard)氏は、いまのような時期にこそ雑誌社の資産を組み合わせた統合的なプログラムは広告主の宣伝担当者にとって大きな役割を果たせるはずであり、広告予算が縮小されると、広告主はカスタマイズされたマーケティング・ソリューションを一社で提供できる媒体社を必要とするという。一方、複数の広告主を対象とする総花的なプログラムは歓迎されないだろうと、『アドバタイジング・エイジ』は書いている。

ここで雑誌社にとって問題となるのは、広告主のパートナーとなるために、自社のコストを削減する一方でそのようなサービスを可能にするマーケティング機能をいかに不足なく温存できるかにある。

『ニューヨーク・オブザーバー』によると、印刷版のスタッフとの一体化により、ウエブサイトを存続させようとしている雑誌もある。

『ニューヨーク(New York)』では、ウエブ・スタッフが雑誌の記事づくりを一部、担当することになった。タイム社の『エンターテインメント・ウイークリー(Entertainment Weekly)』では5名がレイオフされたが、記者が編集の仕事まで行うことによりスタッフ不足を補おうとしている。上記の『フォーブズ(Forbes)』でも、来年から雑誌編集部とウエブチームを統合することで穴埋めをしようとしている。

ウエブは雑誌社の資産の一部にすぎない。要は読者とならぶ顧客である広告主の声に耳を傾けて何を求められているのかを見極め、必要とされる資産を温存・強化することだ。言うまでもないが、そのためには資本と人材を投下しなくてはならない。これはとてつもない難題だ。組織の見直しと合理化は避けられないだろう。

◆情報ソース
At Magazines, It's 2.0 Steps Forward, 1.0 Step Back (The New York Observer)
How to Cut Back Just as Marketers Start Asking for More (Advertising Age)
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メディアのみにあらず―オムニコムが大規模なレイオフ

世界最大の広告会社グループ、オムニコムが、全世界の従業員(約7万人)の5%にあたる大規模なレイオフを計画していると『アドバタイジング・エイジ(Advertising Age)』が報じている。

この報道以前に、『アドバタイジング・エイジ』は、オムニコム・グループでクライスラーのメディア・バイイング/プラニングを担当するPHDが、デトロイト・オフィスの7名を解雇しアトランタ・オフィス(従業員23名)を閉鎖すると報じた。また先月には、同グループの中核企業であるBBDOがデトロイト・オフィスの従業員の22%にあたる145名をレイオフするとの記事を掲載した。

今回の報道では、オムニコム・グループのどの企業が対象になるのかは明らかにされていないが、存亡に危機に立たされるクライスラーをクライアントに持ち、今年ペプシの扱いを失ったBBDOは、さらなるリストラを免れないだろうと、『アドバタイジング・エイジ』は書いている。

オムニコムはBBDOをはじめ、DDBワールドワイド、TBWAワールドワイド、グッドバイ・シルバースタイン&パートナーズ(Goodby Silverstein & Partners)などを傘下に持つ世界最大の広告・PR会社グループ。同グループは、クライスラーがいまのまま経営破たんすると、およそ8千万ドルの貸倒金を抱えることになると言われている。

◆情報ソース(すべてAdvertising Age)
Omnicom Set to Cut Up to 3,500 Jobs
Chrysler Agency PHD to Cut 30 Staffers
BBDO Detroit Cuts 145 Jobs as Chrysler Skids
A Chrysler Bankruptcy Could Leave Omnicom Out $80M



ネット上のインフルエンサーのネタ元は旧来型メディア

ネット上で盛んに情報発信するデジタル・インフルエンサー(digital influencer)の多くがネタを仕入れるのは、旧来型メディアからであることが調査の結果わかった。(※インフルエンサーとは、周囲の人や世論に影響力を持つ人のこと。)

同調査によると、デジタル・インフルエンサーのおよそ84%は、まず雑誌、新聞、テレビ、ラジオでネタを見つけ、それをさらに詳しく調べるためにネットを利用しているという。

この調査は、マーケティング会社のMS&Lが調査会社イプソス・パブリック・アフェアーズ(Ipsos Public Affairs)に委託して行ったもので、美容(beauty)、健康管理(personal health)、環境(environment)の3つのカテゴリーごとに、イプソスのオンライン・パネルからネット上で活発に情報を収集・発信している人939名を抽出し、彼らのネット上の動きを探ったもの。

旧来型メディアでネタを見つけたインフルエンサーが、ネット上でさらに情報収集する際にもっとも参照するのは、美容カテゴリーでは企業や製品のサイト(70%)だった。また、他の人と共有する頻度が高いのはコミュニティ・サイトの情報で、ポータル・サイトや検索サイトはスコアが平均以下だった。

健康管理のカテゴリーのインフルエンサ―は、他のカテゴリーのインフルエンサ―よりもネット上の情報収集に時間をかけず、他の人と情報共有する割合も少ない。例えば、栄養に関して調べているインフルエンサーの割合は54%だったが、そうしてみつけたコンテンツを他の人と共有すると答えた人はその半分以下だった。彼らが、もっとも他の人と共有することが多いと答えたのは政府や自治体のサイトだった。

環境のカテゴリーのインフルエンサーは、3つのカテゴリーの中でネット上の情報収集にもっとも時間をかけている。彼らが他の人と共有することが多いのは、信頼性と客観性が高いと評価できるサイトの情報で、環境問題関連の出版物のサイトや非営利団体や教育機関のサイトだった。ソーシャル・ネットワークやオンライン・コミュニティは、環境問題に限っては口コミにつながりにくいと言える。

◆情報ソース
'Digital Influencers' Get Info from Magazines, TV First (Advertising Age)
MS&L press release



サム・ゼル語る

昨日の続き。トリビューン社のサム・ゼル(Sam Zell)CEOは11月12日、投資会社クアドラングル・グループ(Quadrangle Group)のFourSquare主催のメディア・カンファレンスで、『コンデナスト・ポートフォリオ(Condé Nast Portfolio)』誌の編集長、ジョアンヌ・リップマン(Joanne Lipman)のインタビューに答える形で、新聞に対する考えを述べた。その記録が、同誌のウエブサイトに掲載されている。

著作権の問題があるので、ここではその要点のみをかいつまんで日本語訳を掲載する。先日紹介したルパート・マードックの投稿記事と比較するとおもしろい。

Q:新聞社の業績の、急激な落ち込みについて

Sam Zell(以下SZ):業績の悪化は1月から顕著になっていたが、最近になって、さらに大きな落ち込みに直面した。つまり、状況が変わったということだ。

Q:これから先、新聞に居場所はあるのか

SZ:もちろんあると答えるべきだろう。とはいっても、新聞の歴史が始まって以来の古典的なアプローチはどうかというと、明らかに、失敗モデルだといえる。あるいは、そのモデルが適用できる時代は終わったともいえるかもしれない。新聞ビジネスは基本的に、独占状態のなかで築かれたものであり、他の独占産業同様、独占状態を反映したプロセスやアプローチしか作り上げてこなかった。

新聞業界は、自分たちが顧客相手の商売をしているのであり、顧客の要求や欲求を満たさなくてはならないのだということをわかっていないと思う。それをやらないかぎり、新聞は消滅するだろう。

Q:新しいモデルとは?もう手を打っているのか。

SZ:試験に試験を重ねて、改訂を行っているというところだ。当社は8つの新聞すべてのフォーマットを変えた。まず、サイズを1インチ小さくした。そして顧客の声を反映させた。当社の新聞の読者は、日曜には熱心に新聞を読むが、月~水曜にはほとんど関心を示さず、木曜と金曜にはそれよりは大きな関心を示すことがわかった。そこで、経営の大原則だが、「需要が少なければ供給を減らす」ことにした。新聞業界の常識からするとショッキングな考え方だろうが、それを8紙すべてに適用した。

当社にはコミッションベースで働く営業が一人もいなかった。どの新聞社も固定給で働く営業部隊を持っているが、インセンティブなしで効果をあげる営業部隊など見たこともない。

宅配の問題にも言及すべきだろう。いま、ちょっと出かけて行って販売所で新聞を買えば、50セントしかかからない。しかし、それを自宅に届けてもらうとなると、新聞社は10倍のコストを負担しなくてはならず、にもかかわらず売値は30セントになる。理解しがたいことだ。

Q:個々の対策はわかったが、従来の枠組みと異なるビジネスモデルとはどんなものか。先だって、クリスチャン・サイエンス・モニターがプリント版から撤退してウエブのみに切り替えるという発表をしたが、そういった画期的なことを考えておられるのか、あるいは他に方法があるのか。

SZ:未来の話をするのなら、すべてが電子リーダーで読まれ、そこに配信をするような世界もありだろう。いつか、そんな日も来るかもしれない。しかし重要なのは、我々がいる現実を認識することだと思う。私が子供のころは、「速報」といえば家のドアの前に届けられるものだった。走って行ってドアを開け、何が起こったかを知るわけだ。いまはそんなことはない。ウエブを立ち上げ、CNNや他のニュースサイトを見に行く。それが最新のニュースの入手方法になっている。

そこで問題となるのが、新聞の役割はあるのかということだ。答えはイエスだ。新聞が自らの役割を理解し、それを果たすために適応できるのなら、新聞の役割はある。例えば、当社の新聞は国際報道においては優位性がない。一方、他社にはないローカルのスタッフや知識はある。そこで、フォーカス・グループ調査を行い、読者が新聞から得たいと思うのは何かを聞いたところ、その答えは「ローカル、ローカル、ローカル」だった。

Q:あなたは1年前にロサンゼルス・タイムズを訪れ、「私は沈みゆく船の船長になるためにここに来たのではない」とおっしゃった。ところが、あなたは競合他社以上に大幅な人員削減、特にジャーナリストの削減を行った。そのことと、読者にさらに奉仕し、印刷物でサクセスモデルを築くという目的はどのように結びつくのか。

SZ:何事もそうだが、物事を達成する前に、私たちはプロセスを考えなくてはならないし、変革の方法を考えなくてはならない。レポーターが面白いネタを持ってきたとする。ウエブなら記者と二人して10分もあれば掲載することができるが、紙に印刷する新聞の場合は記者を経て、セクション・エディター、ページ・エディターなど多くの人の手を経なくてはならない。それでどうやって、財政的な競争に勝てると思う?

Q:人を減らしモデルチェンジをした後の新聞は、あなたが買収した当時と比べてより良いジャーナリズムを実現していると思うか?

SZ:とても興味深いことに、うちの顧客はそう言っている。私は当社の8つの新聞すべてのフォーマットを変えた。もっと目立つようにし、写真を増やし、カラー印刷の割合を増やし、記事を見つけやすくした。簡単なことだ。私は出かけ際に、妻に「今日の気温は?」と聞くんだ。彼女は急いで新聞の天気予報を探す。改訂後のシカゴ・トリビューンなら、左下の隅にそれがある。簡単に見つけられる位置だ。皆が求めているのはそうした情報ではないかね?

Q:顧客といえば、広告主はどうか。あなたの新聞の広告売上は、競合相手であるニューヨーク・タイムズやUSAトゥデイよりも急速に落ち込んでいるが。

SZ:それは、ハンセン病と癌を比較するようなものだ。どこも例外なく広告売上は大幅に下落している。答えを言うのなら、我々は顧客の求める製品を実現しなくてはならないということだ。当社はシカゴで、RedEyeという新聞を創刊した。これは、駅やバスの停留所で毎日午後に配布されるフリーペーパーで、25~40歳の人をターゲットにしている。その部数はトリビューンよりも多く、収益も上回っている。我々はシカゴで、Mashという新聞も創刊した。これはVerizonとNikeの協賛で毎週1回、高校を対象に5万部が無料で配布されている。

Q:ジャーナリストの存在はどうなるのか。

SZ:ジャーナリストは読者が知りたいであろうことを伝える以上のことをしている。人の言うことに耳を傾けずに主張ばかりするジャーナリストがいるが、彼らは大学の先生にでもなるべきだ。

Q:調査報道を実践するには山ほどの情報源にあたらなくてはならず、時には一本の記事に1カ月を費やすこともある。新聞にはもはや、そうしたことに費用をまわす余地もないと?

SZ:我々はつい先ほど、広告収入の深刻な落ち込みについて話したばかりだ。新聞のあらゆる側面は経済的な観点から評価されるべきだ。なぜなら、我々は慈善組織ではないから。私は収支に目を光らせ、「収益はどうだ、コストはどうだ、やる意味があるのか」と言い続けなくてはならない。

Q:LAタイムズは、あなたが買収する前の編集長のもとで、多くのピューリッツァー賞を受賞した。それがペイしようがしまいが、非常な努力を傾けた結果だ。ここで話題になったビジネスモデルでは、そんなことも意味がないと?

SZ:ピューリッツァー賞を換金する方法など考えたことがないからね。かつては、新聞が第一面に「ピューリッツァー賞受賞」と謳い、人々が群れをなして受賞記事を読んだ時代もあっただろうが、いまでもそうなのだろうか。尺度の問題もある。つまり、ピューリッツァー賞が目標だとするなら、それは間違いだということだ。我々は記者の将来を考えて署名記事をのせるためにビジネスを行っているのではない。ピューリッツァー賞は偉大だが、それはコーヒーに添えられたクリームに過ぎない。

Q:ピューリッツァー賞の受賞がもたらすものは何かというと、新聞社が自社をどのように位置づけるか―つまるところ、それは社会の信頼だと思う。確かにあなたの言う通り、新聞社は自社の財政を最優先にしてこなかった。そして、そのような時代はもう終わったと。では、これから何を…

SZ:昨夜の時点で、ニューヨーク・タイムズ社の市場価値は12億ドルだった。そこで会場にいるアーサー(サルツバーガー会長)に聞きたいのだが、あなたは慈善事業をやりたいのか。慈善事業ではないというなら、投資家にリターンをもたらすことに専念すべきだ。昔は社会的信用も得ながら株主に貢献することもできただろう。独占産業だったのだからね。だがいま、競争ははるかに激化している。

Q:広告業界に関して言えば、あなたの指摘通り、崖から急降下している状態にあるわけだが、底を突くのはいつなのか。

SZ:メディア業界の悩みの種となっている問題とは、我々は、経済的要因による広告削減に直面しているのか、あるいは構造的変化に直面しているのかということだと思う。広告費削減が、広告主が何が効果的で何が効果的でないかを追求した結果であるならば、それは循環的な変化ではなく、永続的な変化だ。問題は、どこまでがそうなのか、メディア企業や新聞社に身を置く我々はその変化にどう対応できるか、新たな道を見つけられるのかということだと思う。我が社の高校向け新聞は、新たな道を見つけた典型的な例だと思うよ。実際に広告は集まっているし公共のためにもなっているのだから。

Q:では1年後のトリビューン社の売上において、広告収入はさらに減るだろうと思うか、それとも回復の傾向が現れると予測するか?

SZ:それは想像もつかないことだが、来年の第3四半期にはいまのような景気後退は脱しているだろうと思っている。まあそれは、V字回復というよりL字回復に近いゆっくりしたものだろうけど。

最後に一言申し上げたい。新聞ビジネスのコストの86%は、印刷、紙、配送、宣伝に費やされる。そんなことは、長期的には、いや短期的にも許されることではない。こうした生来の問題を明らかにし解決できたら、新聞をもっと経済的な広告媒体に生まれ変わらせることができるだろう。


この後、ゼルCEOは会場にいるオーディエンスの質問に答えてテレビ事業についても述べているのだが、それは割愛する。

マードックとゼルというメディア業界の大物の見解からは、はっきりと新聞の将来像が見えるわけではないが、そこにはこれからの新聞やあるいはメディア業界全体について考える材料が数多くあると思う。はっきりと言えるのは、いまアメリカで起こっていることは決して対岸の火事では済まないということだ。

◆情報ソース
Zell’s Sell (Condé Nast Portfolio.com)



トリビューン社の破たんは終わりの始まりなのか

日本でもすでに報じられているように、今週月曜(12月8日)、大手新聞社トリビューン(Tribune Co.)がチャプターイレブン(米連邦破産法11条:日本の民事再生法にあたる)の適用申請を行ったと発表した。大手新聞社が破産法適用を申請するのは、1933年のワシントン・ポスト(The Washington Post)以来のことだ。

これは、米新聞業界の終わりの始まりかもしれない。マクラッチー社(McClatchy)はもともと20億ドルの負債を抱えていたにもかかわらず2006年、新たに35億ドルを借り入れ、ナイト・リッダー社(Knight Ridder)を買収して全米第2位の新聞社となったが、以来、同社の株価(買収時は1株48ドルだった)は落ち続け、いまでは1株2.46ドルになっている。債務返済に苦しむ同社は、有力誌のひとつである『マイアミ・ヘラルド』(The Miami Herald)を売りに出している。また、ニューヨーク・タイムズ(New York Times Co.)は、本社ビルを抵当に2億2500万ドルの借り入れ交渉を行っている。同社は4億ドルの負債の返済期限を来年5月に迎える。さらに2011年6月に返済期限を迎える、3億6,630億ドルの負債もある。

さて、トリビューン社は全米第4の部数を誇るロサンゼルス・タイムズ(Los Angeles Times)、シカゴ・トリビューン(Chicago Tribune)など8つの日刊新聞を発行するほか、23のテレビ局を所有している。今回の適用申請により、同社は今後、事業を継続しながら債権者との話し合いを行い、再建を目指すことになる。

デラウェア裁判所への申請内容によると、同社の負債総額は129億ドル、資産総額は76億ドル。最大の債権者はJPモーガン・チェイス(J.P. Morgan Chase)の86億ドルで、メリル・リンチ(Merrill Lynch: 16億ドル)、ドイツ銀行(Deutsche Bank: 9億ドル)がそれに続く。なお、同社が所有するメジャー・リーグ球団のシカゴ・カブス(Chicago Cubs)と同球団の本拠地球場であるリグレー・フィールド(Wrigley Field)は、売りに出されているため破産法の適用外となる。

同社は昨年12月、不動産王のサム・ゼル(Sam Zell)が82億ドルの借り入れをして買収したが、それ以前にすでに50億ドルの負債を抱えていた。CEOとなったサム・ゼルは大がかりな人員削減を行ってきたが、解雇手当の一括支払いを受けなかった元社員は、この破産法適用により今後、支払いを受けられなくなる恐れがある。

同社にとって致命的だったのは、新聞広告売上の大幅な落ち込み(今年第3四半期の売上は前年同期比19%減)だった。サム・ゼルは8日に発表したステートメントで次のように述べている。「昨年来、当社は革新と顧客への奉仕を実践する起業家精神あふれる企業に生まれ変わるため、内部の改革を進めてきたが、残念なことに売上の急激な落ち込みと、信用危機を伴う景気後退というコントロール不可能な阻害要因に見舞われ、債務の履行が極めて困難になった」と述べている。

サム・ゼルCEOがチャプターイレブンの適用申請を決意したのはいつだったのだろうか。彼は、11月12日に開催されたメディア・カンファレンスの席上で、『コンデナスト・ポートフォリオ(Condé Nast Portfolio)』誌の編集長、ジョアンヌ・リップマン(Joanne Lipman)の質問に答え、ジャーナリストの誇りであるピューリッツァー賞をこき下ろし、ニューヨーク・タイムズ社のアーサー・サルツバーガー会長に向かって「慈善事業をするつもりでなければ、投資家に配当をもたらすことに専念すべき」と挑戦的な発言をし、自社の内部で進む、紙面の刷新をはじめとする改革を自信満々で語っていたのだ。この時期にはすでに、上記のステートメントでいう「売上の急激な落ち込みと、信用危機を伴う景気後退というコントロール不可能な阻害要因」は、すでに顕在化していたはずなのだが。それとも、いまの急場をしのげばトリビューン社を再建できると信じているのか。

このカンファレンスでのゼルCEOの発言内容は、明日のエントリーで紹介する予定。

◆情報ソース
Tribune Files for Bankruptcy, NYT Borrows against HQ (Marketing VOX)
Debt-Saddled Tribune Co. Files for Bankruptcy Protection (The Washington Post)
New York Times May Mortgage Office as Repayment Looms (Bloomberg)



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