A BUG IN YOUR EAR アメリカの広告・メディア事情 2009年05月

A BUG IN YOUR EAR アメリカの広告・メディア事情

大きな変革期にあるメディア業界、広告業界のこれからを考えるヒントになりそうな、アメリカの業界動向を紹介します。

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新聞や雑誌のコンテンツの違法転用サイト対策に救世主か

ウエブ上の記事を無断転用するブログやウエブサイトは、新聞社をはじめとする媒体社にとって、売上をも脅かす忌まわしい存在だ。そうした違法行為に対応するための技術を開発した2つのスタートアップ企業を、米経済誌『フォーブス』のウエブサイト、forbes.comが紹介している。

そのひとつは、サンフランシスコを拠点とするスクライブド(Scribd)で、同社は2年前に、「テキスト版You Tube」ともいうべき文書の共有サイトを立ち上げた。このサイトは、日本でもすでに利用している人がたくさんいるだろうが、ワード文書、PDF、パワーポイントやエクセルの資料など様々なファイル形式のドキュメントをアップロードし、タグやコメントを付けて共有できるソーシャルネットワークだ。Scribdにアップロードしたドキュメントは、他のサイトやブログに張り付けて(エンベッドして)公開することもできるので便利だ。さらに同社は先週、誰でも自分の著作物を販売できる「スクライブド・ストア(Scribd Store)」をオープンした。Forbesによると、このScribd Storeのサービスでは、著作権者は自身のサイトなどでセキュリティのかかったウィジェットを使ってドキュメントを公開できる。第三者はそのウィジェットを通じてでないと文書を転用できない仕組みだ。ウィジェットを使って、どのサイトに文書が転用されているかを正確に追跡することもできる。

もうひとつは、レッドウッドシティ(カリフォルニア州)に本拠を置くアトリビューター(Attributor)だ。同社は、自社のデータ・サーバに収納した顧客のコンテンツが再利用された場合、それをどこまでも追いかけて利用状況を監視するという。違法利用が見つかった場合、顧客は警告を送り許可の取得か当該コンテンツの削除を求めることができる。また今年4月、同社は発起人となってFair Syndication Consortiumという組織を立ち上げた。新聞や雑誌のサイトの記事を盗用しているサイトは数え切れないほど存在するだろうが、このコンソーシアムのターゲットはそうしたサイトではなく、そこに広告を提供している広告ネットワークだ。Attributorは、違法転用を発見した場合、そのページに広告を配信しているネットワークに広告収入の一部を支払うよう要求する。もちろん、広告ネットワークが支払いを拒否する可能性もあるが、訴訟沙汰や評判に傷が付くのを恐れるネットワークはこの動きに協力するだろうと、Attributorは考えているようだ。現在、Fair Syndication Consortiumには、米雑誌協会やロイターなど、およそ50の大手企業・組織が参加しているとのこと。

◆情報ソース
To The Rescue: Newspaper Content Cops (Forbes.com)

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雑誌の枠をはみ出す変り種

米国で1965年、『アスペン(Aspen)』という雑誌が創刊された。元『アドバタイジング・エイジ(Advertising Age)』編集者のフィリス・ジョンソン(Phyllis Johnson)がスキー・リゾートのアスペンに滞在中に思いついたためにこう名付けられた雑誌だが、「アスペンは読むだけでなく、聞き、壁にかけ、触り、飛ばし、投影し、匂いをかいでください」との宣伝文句のとおり、購読者に送られてくる小箱の中には、ブックレットのほかに、毎号趣向を変えてミニチュアの彫刻から、ポスター、8ミリ・フィルム、レコードなど、様々なものが詰め込まれていた。ジョンソンが「マルチメディア・マガジン」と呼んだこの雑誌は、「ある時期の視点やパーソナリティのタイムカプセル」のような内容で、毎号異なる編集担当者とアートディレクターが作った。年4回刊行の予定で創刊したが、発行の間隔が守られることは稀で、広告は本誌には掲載されず、配送用の小箱の底に印刷されていただけだった。詳しい説明や毎号の内容は、ここで紹介されている。

『ウォール・ストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)』は、この『アスペン』はアートがポップ・カルチャーと生産技術の力で市民権を獲得していった1960年代という時代の落とし子だったが、雑誌は危機に瀕しているいまこそ、定型を突き破って様々な実験に挑むべきだとして、それを実践している変わり種を紹介している。これらを「雑誌」と呼べるかどうかはさておき、発想を柔らかくするトレーニングとして楽しめるのではなかろうか。

T-Post

これは“着る”雑誌である。

T Post magazine outside

6週間ごとに読者に送られてくるのは、紙に印刷された雑誌ではなくTシャツだ。その内側には、読者に何かを考えさせるような、事実に基づいた記事が、表側にはその記事の内容に関連したグラフィックが印刷されている。

T Post magazine inside

2004年2月に、ストックホルムで生まれた。1号あたり26ユーロ(約3,400円)で、最低2号から定期購読できる。購読者の数だけしか印刷されないため、バックナンバーは手に入らない。

www.t-post.se

Visionaire

おそらく世界でもっとも高価な雑誌だろう。1部あたりの製造コストは5,000ドル(約48万円)とのこと。「人々が捨てることのできない、ずっととっておきたいと思わせるようなもののつまった」定期刊行物を目指して1991年、ビジオネール・パブリッシング(Visionaire Publishing)が刊行した。

毎号、カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)、マリオ・テスティーノ(Mario Testino)、スパイク・ジョーンズ(Spike Jonze)といった第一線のファッション・デザイナーやアーティストなどのコラボにより、めずらしい素材を使い、変わったフォーマットで作られる。最新号は、表紙に白地に鳥のデザインがエンボス加工されており、それを日光に曝すと写真のように色が浮き上がる仕組みになっている。

Visionaire magazine

「マス雑誌のコンテンツは広告にコントロールされている」との理由から、広告はいっさい載せない。そのかわり毎号、ルイ・ヴィトン、クリュッグ、ラコステなどの高級ブランドがスポンサーとなり、ファッション・イベントの会期中に開催されるパーティなどで配布される。年に多くて3回発行、1号あたりの印刷部数は3,000~5,000部で、すべてに通し番号が入っている。4号を675ドル(米国内の値段)で予約購読することもできる。

www.visionaireworld.com

Freestyle

今年7月、ファッション・フォトグラファーのジェイソン・マグレイド(Jason McGlade)が創刊する。紙にインクで印刷されるのはこれまでの雑誌と同じだが、変わっているのは円形でフリスビーの内側に嵌めこまれて流通される点(マグレイド氏はフライング・ディスクの愛好家)。

マグレイド氏が編集長/クリエイティブ・ディレクターを務め、「遊び好きでクリエイティブな人たち」に向けて、アート、デザイン、ファッション、ライフスタイルなどを(もちろんフリスビーも)取り上げる。限定5,000部、一部あたり15ユーロで発売の予定。

www.freestylemagazine.co.uk

La Más Bella

誌名の『ラ・マ・ベラ』は “the most beautiful”の意味。スペインのマドリッドで1993年に創刊された。初めの号こそいわゆる雑誌の体裁をとっていたものの、それ以降はまさしくスペイン的芸術的実験の連続だ。例えば、2003年に発行されたある号は、財布の形態をしており、その中に100人近いアーティストが作った紙幣、IDカード、身分証明写真、切符などがつまっている。

Las Mas Bella wallet


この風変わりな雑誌は毎号、発行人であるPepe MurciegoとDiego Ortizの二人が題材を決め、スペインのアーティストによびかけて仕立て上げていく。これまでにおよそ600名のアーティストが参加した。

年にわずか1~2回の発行で、1号あたり制作数も1,000と少ない。定価はなく、号によって12ユーロから50ユーロまで様々で、アート書店や美術館などで販売されている。

www.lamasbella.org

La Lata

La Lata magazine

これもスペイン生まれ。 “La Lata”(The Canという意味)の名のとおり、8リットル缶入りで、密閉されているために購入しないと中を見ることはできない。中には、毎号設定される異なったテーマに基づき、様々なアーティストのつくったオブジェクトが入っている。例えば、最新号のテーマは “Vice”(悪習)で、その中身は「チョコレートから噛み切った爪にいたるまで」、ありとあらゆるものを表現したピースであるとのこと。1号あたり数百しか作られず、年に1度、マドリッドで開催されるアート・フェアARCOの会場で販売される。

www.lalata.es

◆情報ソース
Reinventing the Magazine (Wall Street Journal)

雑誌の誌面を「インタラクティブ」にする試み

アシェット・フィリパッキ・メディア(Hachette Filipacchi Medias)が発行する女性誌『ウーマンズ・デイ』(Woman’s Day)では、“snap-enabled”(撮影用)と表示されたページを携帯電話で撮影し、その画像データを所定のアドレスへ送った読者に、関連したクーポンや商品サンプルを提供する試みを行っている。最初の「インタラクティブ」ページが掲載されたのは昨年10月発売号。この号で、大手小売店「ターゲット」(Target)ブランドの宝石類を紹介した編集ページを撮影して画像を送付してきた読者に、同誌が作った「ターゲット」のウエブページへのリンクを通知し、そこでネックレスの販売を行ったところ、期待を上回る数千の購入申し込みがあったという(販売実数は明らかにされていない)。

この企画の責任者によると、編集ページよりも広告ページで実施した企画の方が、反響が大きいという。これまででもっとも多くの反響があったのは、500ドル相当のギフトが当たるアメリカン・エクスプレスの懸賞企画で、52,000人から画像が送られてきたとのこと(『ウーマンズ・デイ』のレートベースは380万部)。この企画を実施する号では、読者を混乱させないよう、 “snap-enabled”の表示があるページの利用方法を掲載し、対象ページでは画像を送ると何が手に入るかをわかりやすく示すようにしている。同誌は今年も4号で同じ企画を実施する予定。

男性誌『GQ』(コンデナスト社)も同様の企画を実施している。ひとつは、ジレット(Gillette)の制汗剤のプロモーションで、昨年8月号に掲載された同製品の写真を携帯で撮影して送った読者にサンプル商品を提供した。この企画には、締め切りの今年1月までに2,357の応募があったという(同誌のレートベースは92万部)。もうひとつは、マセラティ(Maserati)のエンジン音が女性の生物学的反応(!)を引き起こすという研究結果に目を付けた企画で、『GQ』に掲載されたマセラティの広告を撮影・送付した読者に、エンジン音の着信音をプレゼントした。この企画は12月号で実施され、2,300以上の応募があった。

広告主が主体となって雑誌で実施したインタラクティブ企画もある。フランスの香水・化粧品メーカーのコティ(Coty)は、歌手のグウェン・ステファニ‐(Gwen Stefani)とのコラボレーションで開発した香水の広告を美容誌に掲載。この広告を撮影・送付した読者にグウェン・ステファニ-の楽曲の着メロか、香水サンプルのいずれかをプレゼントするキャンペーンを行った。このキャンペーンには、9月の開始以来、105,000を超す応募があったという。

ちなみに、『GQ』の企画で使用されたのはSnapTell、『ウーマンズ・デイ』の企画に使用されたのはLinkMe Mobileという企業の技術であるとのこと。

◆情報ソース
Magazines Find Some Success With Interactive Content (Advertising Age)

アマゾンの電子リーダーKindleは新聞の救世主にならない

米国で5月6日、アマゾンが電子ブックリーダーの第3世代機種「キンドルデラックス(Kindle DX)」を発表した。Amazon.comで注文を受け付けているが出荷は夏以降になるとのこと。

Kindle DX

Kindle DXの特長は、前モデルKindle 2の2.5倍(9.7インチ)というディスプレイの大きさだ。PDFリーダーと自動画面回転機能も備えており、ペーパーバック大の書籍に最適化していたKindle 2に対して、新聞や雑誌が楽に読めるようになった。インターネットから直接コンテンツをダウンロードすることができ、容量も増えて書籍およそ3,500冊分のデータを蓄えることができる。

『ニューヨーク・タイムズ』(The New York Times)、『ワシントン・ポスト』(The Washington Post)、『ボストン・グローブ』(The Boston Globe)の3紙は、新聞の宅配ができない地域に住む読者に向けて、長期購読契約を条件に安い値段でKindle DXによる購読サービスを提供する。また、大手教科書出版社のワイリー(Wiley)、ピアソン(Pearson)、センゲージラーニング(Cengage Learning)も教科書の電子化でアマゾンと合意。アリゾナ州立大、プリンストン大など6つの大学で、学生にKindleを配布するパイロット・プログラムが開始される。

この大画面のキンドルが普及すれば、オリジナルと同じレイアウトで新聞を読むことができる。当然のことながら広告も表示される。有料で新聞を読む読者と広告主を呼び戻すことができるかもしれない上に、紙・印刷代も配送費もかからないのだから、『ニューヨーク・タイムズ』のサルツバーガー(Arthur Sulzberger)会長をはじめ新聞社の経営陣が期待するのはわかるが、懐疑的な見方をする人も少なくない。

『フォーチュン』誌(Fortune)は、小型のノートブックPCやiPhoneのような高機能の端末が普及する中、電子リーダーが受け入れられるにはカラー表示や動画機能が欠かせないだろうとの見方を紹介している(電子リーダー向けの大型ディスプレイを開発するプラスティック・ロジック社(Plastic Logic)によると、ディスプレイをカラー化するには少なくともあと2年かかるとのこと)。価格の問題もある。Kindle DXは489ドルと安くない。印刷・配送費を節約できる分、新聞社が端末の費用を助成すれば良いという意見もあるが、インターネットで無料の記事を読むのに慣れてしまった読者に再び購読料を払わせるのは並大抵ではないだろう。さらに、最大の障壁となるのは、誰がコンテンツの配信を管理するのかという問題だと、『フォーチュン』は指摘している。配信を管理するということは、すなわち購読者と購読料金をコントロールするということだ。その役割をアマゾンに委ねることに危機感を持つUSAトゥデイ(Today)やニューズ社(News Corp.)はアマゾンの競合であるプラスティック・ロジックやソニーなどと協力関係を築いているし、ハースト社(Hearst)は独自開発の電子リーダーを年内にも発表する計画だ。

『メディアポスト』(MediaPost)は『ニューヨーク・タイムズ』を例に具体的な数字をあげて、キンドルは新聞社の救世主になり得ないと書いている。

この記事によると、ニューヨーク・タイムズ社の今年1-3月期の販売売上は2億2,800万ドルで、ABC(Audit Bureau of Circulations)によると、この売上をもたらしているのは約100万件のフルウィーク(日曜と平日すべて)の定期購読と、約50万件の日曜版のみの定期購読契約だ(フルウィークの年間購読料は約600ドル)。一方、Amazon.comでKindle版の『ニューヨーク・タイムズ』を購読した場合は、月に13.99ドルで済む。仮に、150万件の定期購読者が全員Kindle版に切り替えたとすると、2億2,800万ドルの売上は6,300万ドルに縮小してしまう。(販売売上には定期購読だけでなくニューススタンドでの販売も含まれているから、この『メディアポスト』の計算はかなり乱暴だと思うが、廉価なKindle版に切り替える人が多くなると売上が大幅に縮小するのは事実だ。そのためにニューヨーク・タイムズ社は、特別料金で定期購読を提供する対象を、宅配のできない地域の居住者に限定したのだろうが、それだけでは読者の減少に多少の歯止めはかかるにしても、実績に大きなインパクトを与える規模ではない。)

アマゾンはキンドルの販売台数を公表していないが、多めに見積もって2010年までに500万台に到達したとして、さらにキンドル・オーナーの5人に1人が『ニューヨーク・タイムズ』の定期購読者になった(つまり100万人の定期購読者を獲得できた)と仮定しても、それによる売上は1億6,800万ドルで、たとえそのすべてがプリント版からの乗り換えではなく新規読者だとしても、近年のニューヨーク・タイムズ社の売り上げ減を補うには遠く及ばない。同社の総売上は、2007年から2008年にかけて2億4,500万ドル落ち込み、今年1-3月期は前年同期比1億4,000万ドル減と、縮小幅は拡大する一方だ。

となると、頼みの綱は広告だが(ニューヨーク・タイムズ社の売上の80%は広告による)、キンドル版の掲載広告に他の携帯機器のインターネット広告と同様の料金が適用されるとすると、そのインパクトも十分ではない。いま、iPhoneのような広告料金が高めの端末でも、CPMは30ドル程度だ。上記の100万人のキンドル版読者が日に3回、新聞に目を通し、そのたびに3種類の広告が表示されるとしても、それによる売上は年間1億ドルにしかならない。上記の販売売上増とあわせても2億6,800万ドルで、2007~2008年の売上の落ち込み分をかろうじてカバーできる程度だ。

もちろん、キンドル版はプリント版のような印刷・配送費がかからないから、その分収益は改善するだろうが、上に記したのはきわめて楽観的なシナリオだから、実際は収益が悪化する可能性も十分にある。その意味で、キンドルは新聞の救世主にはならないという『メディアポスト』の読みは、おそらく正しいと言わざるを得ない。

◆情報ソース
Amazon's newest Kindle takes aim at newspapers (Fortune)
News Analysis: Why Kindle Can't Save Newspapers (MediaPost)

Condé Nast Portfolio廃刊の原因は?

すでに伝えられていることだが、去る4月27日、コンデナスト社の大型ビジネス誌『コンデナスト・ポートフォリオ(Condé Nast Portfolio)』(以下『ポートフォリオ』)の廃刊が発表された。非常にスタイリッシュで、脂ぎったところのない知的なビジネス誌として注目していただけに残念なニュースだ。わずか2年前に鳴り物入りで創刊されたこのビジネス誌が、廃刊に至った原因を『アドバタイジング・エイジ(Advertising Age)』が記事にしている。

CondeNast Portfolio cover


『ポートフォリオ』は「スマートで、本質を突き、いくらかのセックスアピールもある」ビジネス誌を目指して、2007年4月に創刊された。それは2005年8月に、コンデナスト社のサイ・ニューハウス(Si Newhouse)会長が、新ビジネス月刊誌の創刊に向けて、ジョアンヌ・リップマン(Joanne Lipman)を編集責任者、デイビッド・ケアリー(David Carey)を発行人として指名した時からのコンセプトだった。当時は経済状況も良かったため、コンデナスト社は創刊までに長い時間をかけた。それが最大のまちがいのひとつである。それから創刊までのおよそ2年間、人材の確保、企画、プロモーションに巨額の投資をしている間に、「セクシー」の意味するものが変容してしまった。つまり、テストイシューが発刊されてから、月刊誌としてスタートするまでの4カ月の間に、景気は後退期に突入してしまった。そして、2008年から今年にかけて、『ポートフォリオ』の掲載広告の80%を占める5つのカテゴリー(金融サービス、B2B、車、ビジネス・トラベル、高級品)の市場は急速に冷え込んでいった。

景気後退の影響で廃刊に追い込まれた雑誌は、『ポートフォリオ』以外にも数多くある。コンデナスト社の『ドミノ(Domino)』もそのひとつだ。しかし、広告ビジネスの不調が『ポートフォリオ』廃刊の原因のすべてではないと指摘する人もいる。

2007年初めから昨年8月まで『ポートフォリオ』の編集者だったジェフリー・チュー(Jeffrey Chu)氏は、リップマン編集長の指導者ぶりに疑問を投げかける。「入社前に彼女は、あらゆるものをビジネス・ストーリーにしていくと語っていたが、編集部に入ってみるとそれは違った。実際は、富裕層の人たちや、ヘッジファンドや財テクなど金持ちが喜ぶ話題ばかりを記事にするように強いられた。ある程度知られている世界の人たちを取り上げ、その人たちを豪華に飾り立てるような記事ばかりだった。」他の編集者にもチャンスを与えてほしいと願っていたスタッフはたくさんいる、とチュー氏は言う。

対してリップマン編集長は、自分の編集上、組織管理上の決定に間違いはなかったと反論し、「新しいものを生み出すために、スタッフには自分が快適だと感じるものから踏み出すことを強いた。そのために高いハードルを設定したから、それを不愉快に感じた人はいただろう」と語っている。発行人のケアリー氏も編集に問題はなかったと言い切る。「(廃刊が決まった後)企業のCEO、CMOをはじめ多くの人たちから、『ポートフォリオ』を読むのが楽しみだったというメールが山ほど届いた。」

『ポートフォリオ』の編集内容が評価されていたのは確かだ。同誌は昨年、ナショナル・マガジン・アウォードを受賞したほか、ビジネスジャーナリズムにおいて最高の賞と言われるジェラルド・ローブ賞でも3部門にノミネートされた。読者も間違いなく獲得していた。昨年下半期の同誌の有料予約購読者の数は、上半期よりも43%多い335,612人に達した。同じ時期に、店頭実売数は11%下落したが、それは多くの人が予約購読に移行したからだとコンデナスト社は分析していた。しかしこのころ、同社は2009年を乗り切るために『ポートフォリオ』の多くのスタッフをレイオフし、発行回数を年回12号から10号に減らす決断をした。ウエブサイトの運営にかける人員も大幅に減らした。その影響か、昨年11月に月間170万人まで増えたユニークビジター数は、今年3月には957,485人まで減少した。

コンデナスト社は、『ポートフォリオ』の創刊に莫大な投資を行った。当初の予定投資額は、5年間で1億ドルと言われている。同誌のスタッフ数はピーク時に140名を数え(人員削減後も85名が働いている)、高収入の編集者たちは、会社の経費で高級レストランでのランチを楽しんでいた。一方、予約購読者には年間12ドル(1号あたり1ドル)という廉価で雑誌を販売したため、広告収入に大きく依存せざるを得ない財務体質になっていた。

Media Industry Newsletterによると同誌の今年1‐4月期の広告集稿ページ数は、昨年同期のわずか39%まで落ち込んだ。昨年の方が発行回数が1号多いことや、コンデナスト社が他社に比べディスカウント率が低いことを勘定に入れても、致命的な下げ幅である。

莫大な投資と長い期間をかけて揺るぎない雑誌ブランドを築き上げ、その後販売と広告の両面で安定した売り上げをあげ資金回収を行っていくのが、これまでのコンデナスト流だった。しかし、雑誌を取り巻く状況も読者や広告主の認識も大きく変わりつつある。『アドバタイジング・エイジ』が書いているように、コンデナスト流で創刊される雑誌は二度と現れないのかもしれない。

◆情報ソース
Down Market: Conde Nast Shutters 'Portfolio' (MediaPost)
Why Conde's Cocktail of Sex Appeal, Biz News Failed (Advertising Age)

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