A BUG IN YOUR EAR アメリカの広告・メディア事情 アマゾンの電子リーダーKindleは新聞の救世主にならない

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アマゾンの電子リーダーKindleは新聞の救世主にならない

米国で5月6日、アマゾンが電子ブックリーダーの第3世代機種「キンドルデラックス(Kindle DX)」を発表した。Amazon.comで注文を受け付けているが出荷は夏以降になるとのこと。

Kindle DX

Kindle DXの特長は、前モデルKindle 2の2.5倍(9.7インチ)というディスプレイの大きさだ。PDFリーダーと自動画面回転機能も備えており、ペーパーバック大の書籍に最適化していたKindle 2に対して、新聞や雑誌が楽に読めるようになった。インターネットから直接コンテンツをダウンロードすることができ、容量も増えて書籍およそ3,500冊分のデータを蓄えることができる。

『ニューヨーク・タイムズ』(The New York Times)、『ワシントン・ポスト』(The Washington Post)、『ボストン・グローブ』(The Boston Globe)の3紙は、新聞の宅配ができない地域に住む読者に向けて、長期購読契約を条件に安い値段でKindle DXによる購読サービスを提供する。また、大手教科書出版社のワイリー(Wiley)、ピアソン(Pearson)、センゲージラーニング(Cengage Learning)も教科書の電子化でアマゾンと合意。アリゾナ州立大、プリンストン大など6つの大学で、学生にKindleを配布するパイロット・プログラムが開始される。

この大画面のキンドルが普及すれば、オリジナルと同じレイアウトで新聞を読むことができる。当然のことながら広告も表示される。有料で新聞を読む読者と広告主を呼び戻すことができるかもしれない上に、紙・印刷代も配送費もかからないのだから、『ニューヨーク・タイムズ』のサルツバーガー(Arthur Sulzberger)会長をはじめ新聞社の経営陣が期待するのはわかるが、懐疑的な見方をする人も少なくない。

『フォーチュン』誌(Fortune)は、小型のノートブックPCやiPhoneのような高機能の端末が普及する中、電子リーダーが受け入れられるにはカラー表示や動画機能が欠かせないだろうとの見方を紹介している(電子リーダー向けの大型ディスプレイを開発するプラスティック・ロジック社(Plastic Logic)によると、ディスプレイをカラー化するには少なくともあと2年かかるとのこと)。価格の問題もある。Kindle DXは489ドルと安くない。印刷・配送費を節約できる分、新聞社が端末の費用を助成すれば良いという意見もあるが、インターネットで無料の記事を読むのに慣れてしまった読者に再び購読料を払わせるのは並大抵ではないだろう。さらに、最大の障壁となるのは、誰がコンテンツの配信を管理するのかという問題だと、『フォーチュン』は指摘している。配信を管理するということは、すなわち購読者と購読料金をコントロールするということだ。その役割をアマゾンに委ねることに危機感を持つUSAトゥデイ(Today)やニューズ社(News Corp.)はアマゾンの競合であるプラスティック・ロジックやソニーなどと協力関係を築いているし、ハースト社(Hearst)は独自開発の電子リーダーを年内にも発表する計画だ。

『メディアポスト』(MediaPost)は『ニューヨーク・タイムズ』を例に具体的な数字をあげて、キンドルは新聞社の救世主になり得ないと書いている。

この記事によると、ニューヨーク・タイムズ社の今年1-3月期の販売売上は2億2,800万ドルで、ABC(Audit Bureau of Circulations)によると、この売上をもたらしているのは約100万件のフルウィーク(日曜と平日すべて)の定期購読と、約50万件の日曜版のみの定期購読契約だ(フルウィークの年間購読料は約600ドル)。一方、Amazon.comでKindle版の『ニューヨーク・タイムズ』を購読した場合は、月に13.99ドルで済む。仮に、150万件の定期購読者が全員Kindle版に切り替えたとすると、2億2,800万ドルの売上は6,300万ドルに縮小してしまう。(販売売上には定期購読だけでなくニューススタンドでの販売も含まれているから、この『メディアポスト』の計算はかなり乱暴だと思うが、廉価なKindle版に切り替える人が多くなると売上が大幅に縮小するのは事実だ。そのためにニューヨーク・タイムズ社は、特別料金で定期購読を提供する対象を、宅配のできない地域の居住者に限定したのだろうが、それだけでは読者の減少に多少の歯止めはかかるにしても、実績に大きなインパクトを与える規模ではない。)

アマゾンはキンドルの販売台数を公表していないが、多めに見積もって2010年までに500万台に到達したとして、さらにキンドル・オーナーの5人に1人が『ニューヨーク・タイムズ』の定期購読者になった(つまり100万人の定期購読者を獲得できた)と仮定しても、それによる売上は1億6,800万ドルで、たとえそのすべてがプリント版からの乗り換えではなく新規読者だとしても、近年のニューヨーク・タイムズ社の売り上げ減を補うには遠く及ばない。同社の総売上は、2007年から2008年にかけて2億4,500万ドル落ち込み、今年1-3月期は前年同期比1億4,000万ドル減と、縮小幅は拡大する一方だ。

となると、頼みの綱は広告だが(ニューヨーク・タイムズ社の売上の80%は広告による)、キンドル版の掲載広告に他の携帯機器のインターネット広告と同様の料金が適用されるとすると、そのインパクトも十分ではない。いま、iPhoneのような広告料金が高めの端末でも、CPMは30ドル程度だ。上記の100万人のキンドル版読者が日に3回、新聞に目を通し、そのたびに3種類の広告が表示されるとしても、それによる売上は年間1億ドルにしかならない。上記の販売売上増とあわせても2億6,800万ドルで、2007~2008年の売上の落ち込み分をかろうじてカバーできる程度だ。

もちろん、キンドル版はプリント版のような印刷・配送費がかからないから、その分収益は改善するだろうが、上に記したのはきわめて楽観的なシナリオだから、実際は収益が悪化する可能性も十分にある。その意味で、キンドルは新聞の救世主にはならないという『メディアポスト』の読みは、おそらく正しいと言わざるを得ない。

◆情報ソース
Amazon's newest Kindle takes aim at newspapers (Fortune)
News Analysis: Why Kindle Can't Save Newspapers (MediaPost)

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