A BUG IN YOUR EAR アメリカの広告・メディア事情 サム・ゼル語る

A BUG IN YOUR EAR アメリカの広告・メディア事情

大きな変革期にあるメディア業界、広告業界のこれからを考えるヒントになりそうな、アメリカの業界動向を紹介します。

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サム・ゼル語る

昨日の続き。トリビューン社のサム・ゼル(Sam Zell)CEOは11月12日、投資会社クアドラングル・グループ(Quadrangle Group)のFourSquare主催のメディア・カンファレンスで、『コンデナスト・ポートフォリオ(Condé Nast Portfolio)』誌の編集長、ジョアンヌ・リップマン(Joanne Lipman)のインタビューに答える形で、新聞に対する考えを述べた。その記録が、同誌のウエブサイトに掲載されている。

著作権の問題があるので、ここではその要点のみをかいつまんで日本語訳を掲載する。先日紹介したルパート・マードックの投稿記事と比較するとおもしろい。

Q:新聞社の業績の、急激な落ち込みについて

Sam Zell(以下SZ):業績の悪化は1月から顕著になっていたが、最近になって、さらに大きな落ち込みに直面した。つまり、状況が変わったということだ。

Q:これから先、新聞に居場所はあるのか

SZ:もちろんあると答えるべきだろう。とはいっても、新聞の歴史が始まって以来の古典的なアプローチはどうかというと、明らかに、失敗モデルだといえる。あるいは、そのモデルが適用できる時代は終わったともいえるかもしれない。新聞ビジネスは基本的に、独占状態のなかで築かれたものであり、他の独占産業同様、独占状態を反映したプロセスやアプローチしか作り上げてこなかった。

新聞業界は、自分たちが顧客相手の商売をしているのであり、顧客の要求や欲求を満たさなくてはならないのだということをわかっていないと思う。それをやらないかぎり、新聞は消滅するだろう。

Q:新しいモデルとは?もう手を打っているのか。

SZ:試験に試験を重ねて、改訂を行っているというところだ。当社は8つの新聞すべてのフォーマットを変えた。まず、サイズを1インチ小さくした。そして顧客の声を反映させた。当社の新聞の読者は、日曜には熱心に新聞を読むが、月~水曜にはほとんど関心を示さず、木曜と金曜にはそれよりは大きな関心を示すことがわかった。そこで、経営の大原則だが、「需要が少なければ供給を減らす」ことにした。新聞業界の常識からするとショッキングな考え方だろうが、それを8紙すべてに適用した。

当社にはコミッションベースで働く営業が一人もいなかった。どの新聞社も固定給で働く営業部隊を持っているが、インセンティブなしで効果をあげる営業部隊など見たこともない。

宅配の問題にも言及すべきだろう。いま、ちょっと出かけて行って販売所で新聞を買えば、50セントしかかからない。しかし、それを自宅に届けてもらうとなると、新聞社は10倍のコストを負担しなくてはならず、にもかかわらず売値は30セントになる。理解しがたいことだ。

Q:個々の対策はわかったが、従来の枠組みと異なるビジネスモデルとはどんなものか。先だって、クリスチャン・サイエンス・モニターがプリント版から撤退してウエブのみに切り替えるという発表をしたが、そういった画期的なことを考えておられるのか、あるいは他に方法があるのか。

SZ:未来の話をするのなら、すべてが電子リーダーで読まれ、そこに配信をするような世界もありだろう。いつか、そんな日も来るかもしれない。しかし重要なのは、我々がいる現実を認識することだと思う。私が子供のころは、「速報」といえば家のドアの前に届けられるものだった。走って行ってドアを開け、何が起こったかを知るわけだ。いまはそんなことはない。ウエブを立ち上げ、CNNや他のニュースサイトを見に行く。それが最新のニュースの入手方法になっている。

そこで問題となるのが、新聞の役割はあるのかということだ。答えはイエスだ。新聞が自らの役割を理解し、それを果たすために適応できるのなら、新聞の役割はある。例えば、当社の新聞は国際報道においては優位性がない。一方、他社にはないローカルのスタッフや知識はある。そこで、フォーカス・グループ調査を行い、読者が新聞から得たいと思うのは何かを聞いたところ、その答えは「ローカル、ローカル、ローカル」だった。

Q:あなたは1年前にロサンゼルス・タイムズを訪れ、「私は沈みゆく船の船長になるためにここに来たのではない」とおっしゃった。ところが、あなたは競合他社以上に大幅な人員削減、特にジャーナリストの削減を行った。そのことと、読者にさらに奉仕し、印刷物でサクセスモデルを築くという目的はどのように結びつくのか。

SZ:何事もそうだが、物事を達成する前に、私たちはプロセスを考えなくてはならないし、変革の方法を考えなくてはならない。レポーターが面白いネタを持ってきたとする。ウエブなら記者と二人して10分もあれば掲載することができるが、紙に印刷する新聞の場合は記者を経て、セクション・エディター、ページ・エディターなど多くの人の手を経なくてはならない。それでどうやって、財政的な競争に勝てると思う?

Q:人を減らしモデルチェンジをした後の新聞は、あなたが買収した当時と比べてより良いジャーナリズムを実現していると思うか?

SZ:とても興味深いことに、うちの顧客はそう言っている。私は当社の8つの新聞すべてのフォーマットを変えた。もっと目立つようにし、写真を増やし、カラー印刷の割合を増やし、記事を見つけやすくした。簡単なことだ。私は出かけ際に、妻に「今日の気温は?」と聞くんだ。彼女は急いで新聞の天気予報を探す。改訂後のシカゴ・トリビューンなら、左下の隅にそれがある。簡単に見つけられる位置だ。皆が求めているのはそうした情報ではないかね?

Q:顧客といえば、広告主はどうか。あなたの新聞の広告売上は、競合相手であるニューヨーク・タイムズやUSAトゥデイよりも急速に落ち込んでいるが。

SZ:それは、ハンセン病と癌を比較するようなものだ。どこも例外なく広告売上は大幅に下落している。答えを言うのなら、我々は顧客の求める製品を実現しなくてはならないということだ。当社はシカゴで、RedEyeという新聞を創刊した。これは、駅やバスの停留所で毎日午後に配布されるフリーペーパーで、25~40歳の人をターゲットにしている。その部数はトリビューンよりも多く、収益も上回っている。我々はシカゴで、Mashという新聞も創刊した。これはVerizonとNikeの協賛で毎週1回、高校を対象に5万部が無料で配布されている。

Q:ジャーナリストの存在はどうなるのか。

SZ:ジャーナリストは読者が知りたいであろうことを伝える以上のことをしている。人の言うことに耳を傾けずに主張ばかりするジャーナリストがいるが、彼らは大学の先生にでもなるべきだ。

Q:調査報道を実践するには山ほどの情報源にあたらなくてはならず、時には一本の記事に1カ月を費やすこともある。新聞にはもはや、そうしたことに費用をまわす余地もないと?

SZ:我々はつい先ほど、広告収入の深刻な落ち込みについて話したばかりだ。新聞のあらゆる側面は経済的な観点から評価されるべきだ。なぜなら、我々は慈善組織ではないから。私は収支に目を光らせ、「収益はどうだ、コストはどうだ、やる意味があるのか」と言い続けなくてはならない。

Q:LAタイムズは、あなたが買収する前の編集長のもとで、多くのピューリッツァー賞を受賞した。それがペイしようがしまいが、非常な努力を傾けた結果だ。ここで話題になったビジネスモデルでは、そんなことも意味がないと?

SZ:ピューリッツァー賞を換金する方法など考えたことがないからね。かつては、新聞が第一面に「ピューリッツァー賞受賞」と謳い、人々が群れをなして受賞記事を読んだ時代もあっただろうが、いまでもそうなのだろうか。尺度の問題もある。つまり、ピューリッツァー賞が目標だとするなら、それは間違いだということだ。我々は記者の将来を考えて署名記事をのせるためにビジネスを行っているのではない。ピューリッツァー賞は偉大だが、それはコーヒーに添えられたクリームに過ぎない。

Q:ピューリッツァー賞の受賞がもたらすものは何かというと、新聞社が自社をどのように位置づけるか―つまるところ、それは社会の信頼だと思う。確かにあなたの言う通り、新聞社は自社の財政を最優先にしてこなかった。そして、そのような時代はもう終わったと。では、これから何を…

SZ:昨夜の時点で、ニューヨーク・タイムズ社の市場価値は12億ドルだった。そこで会場にいるアーサー(サルツバーガー会長)に聞きたいのだが、あなたは慈善事業をやりたいのか。慈善事業ではないというなら、投資家にリターンをもたらすことに専念すべきだ。昔は社会的信用も得ながら株主に貢献することもできただろう。独占産業だったのだからね。だがいま、競争ははるかに激化している。

Q:広告業界に関して言えば、あなたの指摘通り、崖から急降下している状態にあるわけだが、底を突くのはいつなのか。

SZ:メディア業界の悩みの種となっている問題とは、我々は、経済的要因による広告削減に直面しているのか、あるいは構造的変化に直面しているのかということだと思う。広告費削減が、広告主が何が効果的で何が効果的でないかを追求した結果であるならば、それは循環的な変化ではなく、永続的な変化だ。問題は、どこまでがそうなのか、メディア企業や新聞社に身を置く我々はその変化にどう対応できるか、新たな道を見つけられるのかということだと思う。我が社の高校向け新聞は、新たな道を見つけた典型的な例だと思うよ。実際に広告は集まっているし公共のためにもなっているのだから。

Q:では1年後のトリビューン社の売上において、広告収入はさらに減るだろうと思うか、それとも回復の傾向が現れると予測するか?

SZ:それは想像もつかないことだが、来年の第3四半期にはいまのような景気後退は脱しているだろうと思っている。まあそれは、V字回復というよりL字回復に近いゆっくりしたものだろうけど。

最後に一言申し上げたい。新聞ビジネスのコストの86%は、印刷、紙、配送、宣伝に費やされる。そんなことは、長期的には、いや短期的にも許されることではない。こうした生来の問題を明らかにし解決できたら、新聞をもっと経済的な広告媒体に生まれ変わらせることができるだろう。


この後、ゼルCEOは会場にいるオーディエンスの質問に答えてテレビ事業についても述べているのだが、それは割愛する。

マードックとゼルというメディア業界の大物の見解からは、はっきりと新聞の将来像が見えるわけではないが、そこにはこれからの新聞やあるいはメディア業界全体について考える材料が数多くあると思う。はっきりと言えるのは、いまアメリカで起こっていることは決して対岸の火事では済まないということだ。

◆情報ソース
Zell’s Sell (Condé Nast Portfolio.com)



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